欧文フォント集

本文の書体を、Computer Modern から別のものへ替えたい——このページは、pdfLaTeX 流に \usepackage 一行で本文(セリフ)フォントを選ぶための地図です。定番の Computer Modern 系(既定の CM、その後継 Latin Modern、現代版の New Computer Modern)から、Times・Palatino といった「定番の顔」とそれに合う数式フォント、さらに Libertinus・fourier・Charter などの選択肢までを束ねて紹介します。最大の勘所は一つ——数式のある文書では、本文と数式の両方を面倒みるパッケージを選ぶ こと。本文だけ替えて数式が Computer Modern のまま残ると、ちぐはぐで目立ちます。OS にインストール済みの市販フォントをそのまま使いたい場合は、pdfLaTeX ではなく fontspec(XeLaTeX / LuaLaTeX)の領分なので、そちらへ案内します。

選び方の原則 — 数式があるなら数式ごと替える

まず前提を整理します。ここで扱うのは **pdfLaTeX(および DVI 経由の latex)で使える、\usepackage 一行で本文書体を切り替えるパッケージ** です。OS にインストールした OpenType / TrueType フォントを書体名で直接呼び出したいなら、エンジンを XeLaTeX か LuaLaTeX に切り替えて fontspec を使います——その手順は「fontspec」のページに譲ります。なお、これらのパッケージが内部でフォントをどう選んでいるか(NFSS の 5 属性や \rmdefault の差し替え)は「フォントの仕組み」のページが詳しく扱います。

最も大切な原則は、数式を含む文書では、本文と数式をそろって替えてくれるパッケージを選ぶ ことです。LaTeX の数式は専用のフォント(数式イタリック、記号、大型作用素)で組まれており、本文書体だけを差し替えても数式は既定の Computer Modern のまま残ります。Times の本文に CM の数式が並ぶと、太さも字面も合わず、ひと目で「合っていない」と分かります。そこで、Times には newtxmath、Palatino には newpxmath や Pazo Math、というように 本文と対になる数式フォント が用意されています。逆に、数式をほとんど使わない文書(手紙・チラシ・スライドなど)なら、数式の有無を気にせず好きな本文フォントを選んで構いません。

もう一つ実務的な注意を。本文・サンセリフ・等幅は 別々のパッケージで個別に選べます。たとえば「本文は Palatino、サンセリフは Helvetica、等幅は Courier」という組み合わせは、mathpazohelvetcourier を重ねて読み込むだけで作れます。そして本文フォントを替えたら、**\usepackage[T1]{fontenc} も併せて書く** のが定石です(理由は「フォントの仕組み」のエンコーディングの節を参照)。

Computer Modern 系 — CM / Latin Modern / New CM

何も指定しなければ、LaTeX は Computer Modern(CM) で組みます。クヌースが TeX のために設計した書体で、細い線とくっきりしたセリフが特徴の、いかにも「TeX らしい」顔です。ただし生の CM は古い 7 ビットの OT1 エンコーディングが既定で、アクセント付きの語がうまくハイフネーションされないなどの弱点があります。新規の文書で生の CM をそのまま使う理由はほとんどありません——次の Latin Modern を選ぶべきです。

Latin Modern(パッケージ lmodern)は、ポーランドの TeX ユーザ会 GUST が CM をもとに作り直した、事実上の CM 後継 です。見た目は CM とほぼ同じまま、T1 エンコーディングに対応してアクセント付き文字を 1 字形として持ち、Type1(.pfb)と OpenType(.otf)の両方で提供されます。テキスト 72 種・数式 20 種という広いファミリで、対応する数式フォントも揃います。CM の顔が好きなら、まずこれを選んでください。

New Computer Modern(パッケージ newcomputermodern、短縮名 newcm)は、Antonis Tsolomitis による現代版の CM です(2026 年時点で v8.0.1)。OpenType を前提に組まれ、完全な数式フォント とギリシャ・キリルなど多言語の字形、通常の Regular に加えて重めの Book ウェイトまで備えます。Unicode 17.0 に沿った数式字形の追加など更新も活発です。OpenType エンジン(XeLaTeX / LuaLaTeX)で CM 系を最新の体裁で使いたいときの第一候補です。

もう一つ覚えておきたいのが **cm-super** です。これは CM/EC を Type1 化したフォント集で、T1TS1 符号化の CM を Type1 で供給します。lmodern がない古い環境で、T1 のままビットマップでなく滑らかな PDF を得たいときの保険的な選択肢ですが、CM/EC のビットマップから自動でベクター化されたためヒント情報を欠きます。現代では lmodernnewcm を使えば足りることがほとんどです。

latex
% CM の後継。新規文書での既定的な選択 / The CM successor — a sensible default
\usepackage{lmodern}
\usepackage[T1]{fontenc}

% 現代版 CM(OpenType・完全な数式)。XeLaTeX / LuaLaTeX 向け
% Modern CM with full math (OpenType); for XeLaTeX / LuaLaTeX
\usepackage{newcomputermodern}  % または / or: \usepackage{newcm}

定番の顔と対の数式 — Times・Palatino・Helvetica・Courier

次は、PostScript の「基本 35 書体」に由来する古典的な顔です。これらは長く広く使われ、無料のクローン(後述の TeX Gyre や URW 版)が同梱されているため、追加インストールなしで使えます。本文に使うなら、数式を伴う一族 を選ぶのが肝心です。

Times には二系統あります。手軽なのが PSNFSS 同梱の **mathptmx。本文を Times にし、数式を Times・Symbol・一部 CM の字形から組み立てます。より高品質を求めるなら、Michael Sharpe の newtx 一族——本文を newtxtext、数式を newtxmath** で組みます(2026 年時点で v1.756 と更新が活発)。数式の作りが本格的で、Times 系で数式の多い論文を書くなら newtx が定番です。

Palatino も同じく二系統。簡便なのが PSNFSS の **mathpazo で、本文を Palatino にし、Pazo Math という仮想フォントで Palatino に合う数式を組みます。より新しく充実しているのが、やはり Sharpe による newpx 一族——本文を newpxtext、数式を newpxmath**(v1.415)。Palatino はもともと懐の深い読みやすい書体で、人文系・数学系どちらでも人気があります。

サンセリフと等幅も同じ系列で揃えられます。Helvetica は **helvet。Helvetica は字面が大きいので、Times などと合わせるときは \usepackage[scaled=.92]{helvet} のように少し縮小して読み込むのが定石です。Courier(等幅)は courier**。これらはサンセリフ・等幅だけを差し替えるので、本文セリフ用パッケージと自由に組み合わせられます。

これら古典書体には、GUST による上質な無料クローン TeX Gyre があります。Termestgtermes)が Times 相当、Herostgheros)が Helvetica 相当、Pagellatgpagella)が Palatino 相当、Cursortgcursor)が Courier 相当。さらに Bonumtgbonum、Bookman 系)と Scholatgschola、Century Schoolbook 系)もあります。いずれも URW の基本書体クローンを拡張したもので、対応する数式フォント(TeX Gyre Math)も別途提供されています。mathptmx などの「メタな」パッケージを使うか、TeX Gyre を直に指定するかは好みですが、TeX Gyre は字形やアクセントの整備がより新しく丁寧です。

document.tex
\documentclass{article}
% Times の本文+対の数式(高品質)/ Times body + matching math (high quality)
\usepackage{newtxtext}
\usepackage{newtxmath}
\usepackage[scaled=.92]{helvet}  % サンセリフは Helvetica を少し縮小 / Helvetica, slightly reduced
\usepackage{courier}            % 等幅は Courier / mono = Courier
\usepackage[T1]{fontenc}
\begin{document}
Text in Times, with matching math: \( e^{i\pi} + 1 = 0 \).
\textsf{Sans is Helvetica.} \texttt{Mono is Courier.}
\end{document}

その他の人気書体 — Libertinus・fourier・kpfonts・Charter ほか

CM 系と古典書体のほかにも、本文+数式を一式で提供する良質なパッケージがいくつもあります。いずれも数式まで面倒をみるので、論文用途でも安心して使えます。

Libertinus(パッケージ libertinus)は、Linux Libertine/Biolinum を引き継いだ現代的なファミリで、セリフ・サンセリフ・等幅に加えて 数式 まで揃った総合書体です。libertinus は入口となるラッパーで、pdfLaTeX では内部的に libertinus-type1 を、XeLaTeX / LuaLaTeX では libertinus-otf を読み込みます。\usepackage{libertinus} だけで本文・サンセリフ・等幅が一括で切り替わり、osf(オールドスタイル数字)などのオプションも取れます。旧来の libertine パッケージ(Linux Libertine)の後継と考えてよく、数式は libertinust1math 系が担当します。

fourier(パッケージ fourier)は、Adobe Utopia を本文に据え、それに合う 充実した数式フォント と記号類を提供する一式です。Utopia は安定感のある実用的なセリフで、数式の見栄えも良く、理工系の文書で根強い人気があります。\usepackage{fourier} を読み込めば本文が Utopia になり、数式もそれに合わせて組まれます。

kpfonts(パッケージ kpfonts)は、URW Palladio をもとにしつつ親書体とははっきり異なる外観に仕上げた一族で、ローマン・サンセリフ・等幅に加え、スモールキャップスやオールドスタイル数字、そして 広範な数式フォント(AMS フォント相当を通常・ボールドで、立体/斜体のギリシャ文字、多重積分の異体字など)まで備えます。一式で完結したい人に向く、数式の充実したパッケージです(OpenType 版の kpfonts-otf もあります)。

Charter は、画面でも紙でも読みやすい実用的なセリフです。Michael Sharpe が Bitstream Charter を拡張した **XCharter** パッケージが本文を担い、スモールキャップスやオールドスタイル数字を備えます。数式は、newtxmath を **charter(=xcharter)オプション 付きで読み込むと Charter に合う数式イタリックとギリシャ文字が使えます。近年は専用の xcharter-math** パッケージも登場しました(2026 年)。長文や本文量の多い文書で、Times より少し穏やかな表情がほしいときに向きます。

スラブセリフやサンセリフを探しているなら Bera(パッケージ bera)も候補です。Bitstream Vera を Type1 化したもので、Bera Serif(スラブセリフ)、Bera Sans(Frutiger 系のサンセリフ)、Bera Mono(等幅)の三族からなります。数式までは含みませんが、beramono のように等幅だけを採るといった部分使いに重宝します。

latex
% それぞれ本文+数式を一式で切り替える / Each switches text + math as a set
\usepackage{libertinus}   % Libertinus(セリフ/サンセリフ/等幅/数式)
% \usepackage{fourier}    % Utopia + 充実した数式 / Utopia with full math
% \usepackage{kpfonts}    % URW Palladio 由来・広範な数式 / Palladio-derived, rich math

% Charter 本文+対の数式 / Charter body + matching math
% \usepackage{XCharter}
% \usepackage[charter]{newtxmath}
\usepackage[T1]{fontenc}

一覧 — パッケージ・顔・数式の有無

主な選択肢を、本文での \usepackage 名・どんな顔か・対応する数式があるかで一覧にします。数式のある文書では「対応する数式」が「あり」の行から選ぶ と覚えてください。サンセリフ・等幅のみのもの(helvet・courier・bera)は、本文セリフ用パッケージと重ねて使います。

パッケージ顔・系統対応する数式
lmodernLatin Modern(CM 後継・セリフ)あり(CM 系の数式)
newcomputermodernNew Computer Modern(現代版 CM・OpenType)あり(完全な数式)
mathptmxTimes(PSNFSS・手軽)あり(Times+Symbol+一部 CM)
newtxtext + newtxmathTimes(newtx・高品質)あり(newtxmath)
mathpazoPalatino(PSNFSS・手軽)あり(Pazo Math)
newpxtext + newpxmathPalatino(newpx・高品質)あり(newpxmath)
helvetHelvetica(サンセリフのみ。scaled で縮小)なし(サンセリフ用)
courierCourier(等幅のみ)なし(等幅用)
tgtermes / tgpagella / tgheros / tgcursorTeX Gyre(≈Times / Palatino / Helvetica / Courier)TeX Gyre Math を別途
libertinusLibertinus(Linux Libertine 後継・総合)あり(libertinust1math)
fourierUtopia ベースあり(充実した数式)
kpfontsURW Palladio 由来・総合あり(広範な数式)
XCharterCharter(Bitstream Charter 拡張)newtxmath の charter / xcharter-math
beraBitstream Vera(セリフ/サンセリフ/等幅)なし

迷ったときの目安。**CM の顔が好きなら lmodern**(または OpenType 環境で newcm)。**Times が要るなら newtxtextnewtxmathPalatino なら newpxtextnewpxmath** か mathpazo。**新しめで総合力のある一式なら libertinusUtopia 系の数式なら fourier**。OS の市販フォントをそのまま使いたいなら、fontspec(XeLaTeX / LuaLaTeX)へ進んでください。