ギリシャ文字

ギリシャ文字は、数式モードのなかで \alpha\beta のような命令として入力します。覚えておきたい勘どころは三つ。小文字はほぼ全文字に命令があること、大文字は ラテン文字と形が違うものにしか命令がない こと、そして同じ文字に \epsilon\varepsilon のような 二つの字形(variant) があることです。このページは入力の考え方を整理したうえで、小文字・大文字・異体字を引きやすい一覧表にまとめ、最後に立体(upright)と太字の出し方に触れます。

ギリシャ文字の入れ方

ギリシャ文字は 数式モードのなか で使う記号です。本文(テキストモード)にそのまま \alpha と書いてもエラーになるので、$\alpha$ のように数式モードに入れてから書きます。命令名は文字の英語綴りそのままで、\alpha(アルファ)、\beta(ベータ)、\gamma(ガンマ)のように対応します。出力される字は、変数と同じく 数式イタリック(斜体) で組まれます。

latex
角度 $\theta$ と波長 $\lambda$ を使う。
\[
  E = \hbar \omega, \qquad \Delta x \, \Delta p \ge \frac{\hbar}{2}
\]

ここで \theta\lambda\omega は小文字、\Delta は大文字(命令名の頭が大文字)です。命令名は 大文字・小文字を区別する ので、\Delta(Δ)と \delta(δ)はまったく別の文字になります。なお、これらは LaTeX 標準で使えますが、\digamma\varkappa といった一部の異体字だけは amssymb パッケージが必要です(後述)。

一覧を見る前に、最初に挙げた三つの勘どころを押さえておきましょう。(1) 小文字はオミクロンを除く全文字に命令がある。(2) 大文字はラテン大文字と形が同じもの(Α, Β, Ε …)には命令がなく、ラテン文字をそのまま打つ。(3) いくつかの文字には字形違いの異体字命令(\var…)がある。順に表で見ていきます。

小文字

小文字のギリシャ文字は、24 字のうち オミクロン以外のすべて に命令が用意されています。オミクロンはラテン小文字の o と字形が同じなので専用命令がなく、数式モードでそのまま o と打ちます。次の表が小文字の全一覧です(字形は実際のグリフ、読みは日本語/英語)。

命令字形読み
\alphaαアルファ
\betaβベータ
\gammaγガンマ
\deltaδデルタ
\epsilonϵイプシロン
\zetaζゼータ
\etaηエータ
\thetaθシータ
\iotaιイオタ
\kappaκカッパ
\lambdaλラムダ
\muμミュー
\nuνニュー
\xiξクシー(グザイ)
ooオミクロン(命令なし・ラテン o)
\piπパイ
\rhoρロー
\sigmaσシグマ
\tauτタウ
\upsilonυウプシロン
\phiϕファイ
\chiχカイ
\psiψプサイ
\omegaωオメガ

上の表で \epsilon\phi の字形(ϵ・ϕ)には別の形もあり、次の「異体字」の節で扱います。また \xi(クシー)と \zeta(ゼータ)、\nu(ニュー)と \upsilon(ウプシロン)と \mu(ミュー)は字形が紛らわしいので、ソースでは命令名で取り違えないよう注意してください。

大文字(重要な約束)

ここがギリシャ文字でいちばん戸惑いやすいところです。LaTeX は 大文字のギリシャ文字に、ラテン大文字と形が違うものだけ命令を用意 しています。たとえばガンマの大文字 Γ はラテン文字にない形なので \Gamma がありますが、アルファの大文字は見た目が A とまったく同じなので **\Alpha という命令は存在しません**。アルファの大文字が欲しいときは、数式モードでただ A と打ちます。

命令が用意されているのは次の 11 字 だけです:\Gamma\Delta\Theta\Lambda\Xi\Pi\Sigma\Upsilon\Phi\Psi\Omega。これらは数式中で 立体(直立) で組まれます(小文字が斜体なのと対照的です)。

命令字形読み
\GammaΓガンマ
\DeltaΔデルタ
\ThetaΘシータ
\LambdaΛラムダ
\XiΞクシー(グザイ)
\PiΠパイ
\SigmaΣシグマ
\UpsilonΥウプシロン
\PhiΦファイ
\PsiΨプサイ
\OmegaΩオメガ

残りの大文字——アルファ・ベータ・エプシロン・ゼータ・エータ・イオタ・カッパ・ミュー・ニュー・オミクロン・ロー・タウ・カイ——は、対応するラテン大文字 A B E Z H I K M N O P T X をそのまま打ちます。ただし注意点があります。数式モードで打ったラテン文字は 変数として斜体(数式イタリック) になるため、これらの「ギリシャ大文字」は直立ではなく斜体で出ます。\Gamma などの 11 字が立体なのと書体がそろわない点は意識しておきましょう(直立でそろえたい場合は次節の upgreek を使います)。

latex
% 命令のある大文字(立体)
\[ \Gamma(n) = (n-1)!, \qquad \sum \to \Sigma, \qquad \Omega = \mathrm{V/A} \]
% 命令のない大文字はラテン文字を直接(数式中では斜体になる)
\[ A = \pi r^2 \quad (\text{ここで } A \text{ は大文字アルファのつもり}) \]

異体字(variant 字形)

同じ文字でも、印刷の伝統や分野の慣習によって 二つの字形 が使われるものがあります。LaTeX はこれを別々の命令で区別し、変種のほうに var(variant)を冠した名前を与えています。たとえばイプシロンには丸い \epsilon(ϵ)と、月のような形の \varepsilon(ε)があり、数学では後者の ε のほうがよく使われます。どちらを選ぶかは内容ではなく 見た目の好み・慣習 の問題で、文書内で統一するのが基本です。

命令字形備考
\epsilonϵ丸いイプシロン(標準)
\varepsilonε月形イプシロン。数学で好まれる
\thetaθシータ(標準)
\varthetaϑ筆記体風シータ
\piπパイ(標準)
\varpiϖ異体パイ(ωに似た形)
\rhoρロー(標準)
\varrhoϱ尾のあるロー
\sigmaσシグマ(標準)
\varsigmaς語末シグマ
\phiϕ閉じたファイ(標準)
\varphiφ開いたファイ。物理で好まれる
\varkappaϰ異体カッパ(amssymb が必要)
\digammaϝディガンマ(amssymb が必要)

実用上の指針をいくつか。イプシロンは数学なら \varepsilon(ε)を選ぶ人が多く、ファイは物理で \varphi(φ)がよく使われます。\varpi(ϖ)はオメガに似た形なので取り違えに注意。\varsigma(ς)はギリシャ語で語末に現れるシグマで、数式ではあまり使いません。そして **\varkappa(ϰ)と \digamma(ϝ)だけは標準では未定義** で、プリアンブルに \usepackage{amssymb} が要ります。なお大文字側には var… の異体字はありません(大文字の異体形は数式書体の節で扱う \varGamma など別の枠組みです)。

立体(upright)と太字

標準では、小文字のギリシャ文字は変数として 斜体 で組まれます。しかし量記号ではなく 定数や単位、立体で組むべき記号 にギリシャ文字を使いたいことがあります。代表例が円周率の定数 π で、ISO の数式組版規則では「数学定数は立体(ローマン体)」と定められているため、定数としての π は本来 立体の π で組むのが正式です(LaTeX 標準の \pi は斜体)。

立体のギリシャ文字を出すには **upgreek パッケージ** が便利です。\usepackage{upgreek} を読み込むと、小文字は \upalpha\upbeta\uppi\upmu …、大文字は \Upgamma\Updelta … のように up を冠した命令で直立の字形が得られます。たとえば単位の「マイクロ」を表す μ や、定数 π を立体で組みたいときに使います。

latex
\usepackage{upgreek}
% ...
% 定数 π は立体で(ISO 規則)
\[ C = 2 \uppi r \]
% 変数なら斜体のまま
\[ \pi \text{(角度の変数など)} \]

太字のギリシャ文字(ベクトルやテンソルの記号など)は、amsmathamsbsy\boldsymbol{…} か、bm パッケージの \bm{…} を使います。\boldsymbol{\alpha}\bm{\omega} のように書くと、数式記号としての太字(boldface italic)が得られます。\mathbf{…} はラテン文字には効きますが小文字ギリシャには効かないことが多いため、ギリシャ文字には \boldsymbol\bm を使うのが定石です。書体の使い分けの全体像は「数式の書体」で詳しく扱います。

まとめると、量記号としてのギリシャ文字は標準命令(斜体)、定数・単位など立体で組むべきものは upgreek\up…、太字にしたいときは \boldsymbol\bm、という使い分けになります。斜体・立体・太字をどう使い分けるかという規範については「ISO/JIS の数式組版規則」も参照してください。