ドロップキャップ(lettrine)

ドロップキャップ(dropped capital, lettrine)とは、段落の冒頭の頭文字を大きく組み、続く数行に食い込ませる飾りです。書籍や章の扉でおなじみの装飾で、LaTeX では Daniel Flipo 氏の **lettrine** パッケージが事実上の標準。このページでは \lettrine の使い方と、大きさ・はみ出し・書体を調整する主要オプションを見ていきます。

基本の使い方

まずプリアンブルで \usepackage{lettrine} を読み込み、段落の先頭で \lettrine[options]{T}{he rest} と書きます。必須の引数は 2 つ です。第 1 引数 {T} が大きく落とし込む 頭文字(ドロップキャップ本体)、第 2 引数 {he rest} がそれに続くテキストで、既定では スモールキャピタル(小型大文字) で組まれます。続く本文は、頭文字の右脇に自動で回り込みます。

document.tex
\documentclass{article}
\usepackage{lettrine}
\usepackage{lmodern}      % fully scalable fonts
\begin{document}
\lettrine{L}{orem} ipsum dolor sit amet, consectetur
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labore et dolore magna aliqua.
\end{document}

これをコンパイルすると、2 行分の高さに拡大された大きな L が左端に置かれ、その右下に「orem」がスモールキャピタルで続き、本文がまわりに回り込みます。区切りに注意してください。{L}{orem} のあいだに空白は入れず、頭文字に続く語をそのまま第 2 引数に渡します。

一点だけ注意があります。lettrine は頭文字を任意のサイズへ拡大するため、フォントが 無限段階に拡大できる こと(fully scalable)を前提とします。Computer Modern(CM)や EC フォントは既定で限られたサイズしか持たないため、\usepackage{lmodern}(Latin Modern)を併用するか、Palatino・Times などの PostScript / OpenType フォントを使うのが安全です。CM をそのまま使う場合は \usepackage{type1cm}、EC なら \usepackage{type1ec} を読み込みます。

主要オプション

見た目の調整は、角括弧の中にカンマ区切りの オプション を並べて行います。もっとも使うのは、頭文字の高さを決める lines=、丸い字を左余白へ食い込ませる lhang=、字を行高より大きくする loversize= の 3 つです。

オプション意味既定値
lines頭文字が占める行数(高さ)2
lhang頭文字の幅のうち左余白へはみ出す割合(0〜1)。O・C など丸い字で有効0
loversize頭文字を高さ方向に拡大する割合(−1〜1)。0.1 で 10% 大きく0
lraise頭文字を持ち上げる量(高さに対する割合)0
findent頭文字と本文(1 行目)のあいだの空き0pt
nindent2 行目以降の字下げ量0.5em
slope回り込むテキスト左端の傾き(A・V など斜辺の字向け)0pt
ante頭文字の直前に組む文字列(仏語の開きギュメ等)

これらの既定値はパッケージ読み込み時にも変更できます。たとえば \usepackage[lines=3]{lettrine} と書けば、文書全体の既定の高さが 3 行になります。\lettrine の引数で個別に渡したオプションは、こうした既定値を 上書き します。

調整した例

次は、高さを 3 行にし、頭文字 T を幅の 20% だけ左余白へ食い込ませた例です。T のように左上が張り出した字は、少しはみ出させると本文との間延びが収まり、見た目が引き締まります。

latex
\lettrine[lines=3, lhang=0.2]{T}{his is} the opening paragraph of
a chapter. The initial drops three lines deep, the first word
runs on in small capitals, and the remaining text wraps neatly
around the dropped capital until the paragraph clears it.

できあがりは、本文 3 行分の高さに組まれた大きな T が、その左肩をわずかに余白へ突き出した状態で置かれ、「his is」がスモールキャピタルで続き、3 行目までの本文が頭文字の右側に回り込む、という体裁になります。同様に、斜辺をもつ AV では slope= で本文の左端を字の輪郭に沿わせると自然です(公式ドキュメントの例 \lettrine[lines=4, lraise=0.1, nindent=0em, slope=-.5em]{V}{oici} を参照)。

頭文字と続く語の書体

頭文字の書体は、フック \LettrineFontHook\renewcommand で再定義して変えます。その中身は LaTeX の低レベルなフォント命令で、たとえば次のように書くと、ドロップキャップだけを Palatino のボールド・拡張・斜体で組めます。

latex
\renewcommand{\LettrineFontHook}{\fontfamily{ppl}\fontseries{bx}\fontshape{sl}}

LuaLaTeX や XeLaTeX なら、fontspec を使ってもっと手軽に指定できます。\renewcommand{\LettrineFontHook}{\fontspec{LinLibertine_I.otf}} と書けば、Linux Libertine の装飾頭文字(イニシャル)に切り替わります。同じフックで色も変えられ、\renewcommand{\LettrineFontHook}{\color{gray}{0.5}} のようにすると、それ以降のすべての頭文字が灰色になります。

続く語(第 2 引数)の書体は \LettrineTextFont が担い、既定は \scshape(スモールキャピタル)です。スモールキャピタルをやめたいなら、\renewcommand{\LettrineTextFont}{\rmfamily} のように再定義します。なお、頭文字そのもののサイズは行数から自動計算されるため、\LettrineFont を直接書き換える必要はありません(カスタマイズはフック経由で行います)。

使える場所と代替手段

\lettrine には効く場所と効かない場所があります。quotequotationabstract 環境では使えますが、verse 環境では使えず、center 環境では [lines=1] のときしか使えません。また 箇条書き(リスト)の中では使えません。環境の中で使うときは、頭文字で始まる段落をその環境の 内側で 終える(必要なら \par を補う)のが約束事です。

代替手段としては、頭文字を画像にしたいとき lettrine 自身の image=true オプションが使えます(graphicx が必要)。古くからの **Drop** パッケージや、\hangindent と大きな文字を手で組み合わせる方法もありますが、行数指定・はみ出し・書体の調整まで含めれば、現在は lettrine を使うのがもっとも確実です。