LaTeX には初めから article・report・book・letter という四つの標準クラスが備わっています。\documentclass でどれを選ぶかという仕組みそのものは別ページに譲り、ここでは四つが具体的に何を変えるのか——章を持つか、片面か両面か、タイトルを独立ページにするか——を一つずつ比べていきます。これらは環境を問わず動く「最も移植性の高い土台」ですが、その素朴さゆえの限界もあわせて見ていきます。
四つのクラス
まず全体像を押さえましょう。article は最もよく使う汎用クラスで、学術論文・短い報告書・記事向け。最大の特徴は \chapter を持たない ことで、見出しの最上位は \section です。report は \chapter を持ち、複数の章にわたる比較的長い文書——技術報告書や学位論文——に向きます。既定では 片面(oneside) 組みで、タイトルは独立した タイトルページ になります。book も \chapter を持ちますが、書籍向けに既定で 両面(twoside) 組みとなり、\frontmatter / \mainmatter / \backmatter で前付・本文・後付を切り替えられます。letter は手紙専用で、\address や \signature など他とはまったく異なる命令体系を持ちます。
クラスをどう選び、\documentclass[options]{class} をどう書くかという基本の仕組みは「ドキュメントクラスとプリアンブル」で扱っています。このページはその一段下、四つの標準クラスを 横並びで比較する ことに絞ります。
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四つの違いを表にまとめると、設計の意図が見えてきます。鍵になるのは「章を持つか」「片面か両面か」「タイトルを独立ページにするか」「想定する用途」の四点です。
| クラス | 章 \chapter | 既定の面 | タイトルページ | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
article | なし(最上位は \section) | 片面 oneside | なし(本文と同ページ) | 論文・短い報告・記事 |
report | あり | 片面 oneside | あり(独立ページ) | 長めの報告書・学位論文 |
book | あり | 両面 twoside | あり(独立ページ) | 書籍 |
letter | なし(手紙専用の構造) | 片面 oneside | なし | 手紙・通信文 |
章を持つ report と book の差は主に体裁です。book は両面前提で、見開きで左右の余白が入れ替わり、章は既定で右ページ(奇数ページ)から始まります(openright)。report は片面前提で、章はどのページからでも始まります(openany)。文章の論理は同じでも、印刷・製本の前提が違うわけです。
四つが共通して受け取るオプション
slides を除く標準クラスは、共通のオプション群を \documentclass[...]{...} の角括弧で受け取ります。多くは文書全体に効くスイッチで、クラスごとに 既定値が違う ものがある点に注意してください。
10pt/11pt/12pt— 本文の基準文字サイズ。既定は10pt。- 用紙サイズ —
letterpaper(既定)・a4paper・a5paper・b5paper・legalpaper・executivepaper。日本ではa4paperをほぼ必ず指定します。 twocolumn— 本文を 2 段組にする(既定は 1 段組のonecolumn)。twoside/oneside— 両面/片面レイアウト。既定はoneside、ただしbookだけtwoside。titlepage/notitlepage— タイトルを独立ページにするか。report・bookはtitlepage、articleはnotitlepageが既定。openright/openany— 章を右ページから始めるか任意のページからか。bookはopenright、reportはopenanyが既定(章のないarticleには無関係)。fleqn— 別行立て数式を左寄せにする(既定は中央)。leqno— 式番号を左側に付ける(既定は右)。landscape— 用紙を横向きに。draft— あふれた行(overfull box)を黒い印で示す(既定はfinal)。openbib— 参考文献を「オープン」形式で組む。
たとえば \documentclass[11pt,a4paper,twoside]{report} は、11 ポイント・A4・両面の report です。report の既定は片面なので、ここで twoside を補っています。なお歴史的にはスライド用の slides クラスもありましたが、いまは事実上 beamer に置き換わっており、新規に使うことはまずありません。
report の最小例
次は report の最小構成です。\maketitle がタイトル情報を 独立したタイトルページ に組み(これが report・book の既定)、続く \chapter から本文が始まります。article ではタイトルは本文と同じページに置かれ、\chapter は使えません——ここが両者の最も目に見える違いです。
\documentclass[11pt,a4paper]{report}
\title{An Experimental Report}
\author{Ada Lovelace}
\date{\today}
\begin{document}
\maketitle % separate title page (report/book default)
\tableofcontents
\chapter{Introduction}
This report has chapters, unlike \texttt{article}.
\chapter{Method}
\section{Apparatus}
Sections live inside chapters here.
\end{document}これを book に替えると、両面組みになり、\frontmatter を置けば目次までがローマ数字(i, ii, …)で番号付けされ、\mainmatter から第 1 章がアラビア数字に振り直されます。book 特有の前付・本文・後付の仕組みは「ドキュメントクラスとプリアンブル」で詳しく扱っています。
letter の構造
letter は他の三つとはまったく違う作りです。差出人情報——\address{...}(自分の住所)と \signature{...}(署名)——は プリアンブルに 置き、すべての手紙で共有します。手紙そのものは letter 環境で、その 引数が宛先の住所 になります。本文は \opening{...}(書き出しの挨拶)で始め、\closing{...}(結びの語)で締めます。タイトルページも \maketitle もありません。
\documentclass{letter}
\address{1 Computing Way \\ London} % sender, in the preamble
\signature{Ada Lovelace}
\begin{document}
\begin{letter}{Charles Babbage \\ 2 Engine Road} % recipient = argument
\opening{Dear Mr.\ Babbage,}
Thank you for the notes on the Analytical Engine.
\closing{Yours sincerely,}
\cc{The Royal Society}
\encl{Two diagrams}
\end{letter}
\end{document}一つのファイルに複数の letter 環境を並べれば、差出人を共有したまま宛先違いの手紙を何通でも作れます。\closing のあとには、写しの宛先を示す \cc{...}、同封物を列挙する \encl{...}、追伸の \ps を続けられます。住所内の改行は \\ で区切ります。
標準クラスの限界と、その先
標準クラスは 移植性の高い土台 です。どの環境にも必ずあり、追加インストールも要らず、長期保存にも安心。まずはここから始めるのが定石です。一方で、ページ設計を細かく作り込みたい——見出しの体裁、ヘッダ・フッタ、余白を緻密に制御したい——となると、設計が古く、調整がしづらい面が出てきます。
そうしたときは代替クラスへ移ります。KOMA-Script(scrartcl / scrreprt / scrbook)や memoir は、より整った既定タイポグラフィと豊富な設定インターフェースを備え、標準クラスの上位互換として広く使われています(「代替クラス」を参照)。発表スライドなら、slides ではなく beamer が定番です。
日本語については事情が異なります。article などの標準クラスは日本語組版を想定しておらず、字間・行送り・和欧文の間隔が整いません。そこで pLaTeX / upLaTeX なら jsclasses(jsarticle / jsbook)、LuaLaTeX なら ltjsclasses、より新しくは jlreq を使います(「js 系クラス」を参照)。日本語で書くなら、標準クラスではなくこれらを起点にしてください。
実務では指定から逆算する
クラス選びは好みではなく、提出先の条件から逆算します。授業レポートで章が不要なら article、章立ての技術報告なら report、製本して見開きを意識する原稿なら book、通信文なら letter です。指定テンプレートがある場合は、そのテンプレートのクラスが本文構造、余白、タイトルページをすでに決めているので、標準クラスへ戻してはいけません。
- PDF提出だけ —
articleやreportのonesideで十分なことが多い。 - 紙で綴じる —
twosideと綴じ代を意識し、必要なら標準クラスより KOMA-Script や memoir を検討する。 - 日本語本文が主体 — 標準クラスではなく jsclasses、ltjsclasses、jlreq のどれかから始める。
- スライド — 古い
slidesクラスではなく、別ページで扱うbeamerを選ぶ。
途中でクラスを変えたら確認する
原稿の途中で article から report、または report から book へ変えると、本文の命令が同じでも PDF の性格は変わります。\maketitle の位置、\chapter の有無、目次の深さ、ページ番号の振り直し、片面・両面の余白が変化するからです。クラス変更は「見た目を少し変える」作業ではなく、文書構造を変える作業として扱います。
| 確認箇所 | 見る理由 | よくある直し方 |
|---|---|---|
title | タイトルページの有無が変わる | titlepage / notitlepage を明示する |
sections | article には \chapter がない | 章が必要なら report / book、不要なら \section へ戻す |
sides | book は既定で両面組み | PDF提出だけなら oneside、製本なら twoside を意図して選ぶ |
frontmatter | book は前付・本文・後付を分けられる | \frontmatter / \mainmatter / \backmatter の位置を決める |