TeX は 1970 年代生まれのソフトでありながら、今も第一線で使われ続けています。これほど長く安定して生き残ったソフトは稀です。このページでは、TeX がどう生まれ・どこへ向かっているのか、そして「無料で自由に使える」とはどういうライセンスなのかを見ていきます。
TeX が生まれるまで
TeX を作ったのは、スタンフォード大学の ドナルド・クヌース(Donald E. Knuth, 1938–)です。計算機科学の最高賞であるチューリング賞(1974 年)や京都賞(1996 年)を受けた、分野を代表する学者です。
きっかけは自著『The Art of Computer Programming』でした。第 2 巻の改訂版がコンピュータ組版で作られたところ、活版印刷に比べて出来栄えがかなり見劣りした——これに我慢ならなかったクヌースは、1978 年、活版に劣らない美しい組版ができるソフトを自分で作る決心をします。さらに文字をデザインするためのソフト METAFONT も作り、書体 Computer Modern まで自らデザインしました。現在とほぼ同じ TeX は 1982 年ごろに完成し、1984 年には解説書『The TeXbook』が出ています。
π に収束するバージョン番号
1989 年以降、クヌースは TeX の拡張よりも 安定化 に専念しました。バージョン 3 からは独特の番号付けを採り、修正のたびに末尾へ桁を足して 3.14 → 3.141 → 3.1415 … と、番号が円周率 π に少しずつ近づいていきます。クヌースの遺志は、自身の死をもって番号を π に確定させ、そこで永遠に凍結するというもの。以後はどんな不具合があっても誰も手を入れません(姉妹品の METAFONT は同様に e に向かいます)。
この徹底した安定志向こそ、何十年も前に書いた原稿が今日もそのままコンパイルできる理由です。TeX はコンピュータ組版の歴史における「不動点」と言ってよい存在になりました。
LaTeX のこれまでとこれから
LaTeX は レスリー・ランポート が 1980 年代に作りました。1994 年に登場した LaTeX 2ε が現行版で、いま「LaTeX」と言えばこれを指します(それ以前は LaTeX 2.09)。内部は次世代の LaTeX3(expl3) の実装へ少しずつ置き換えられており、将来は「お行儀の良くない」書き方の文書が通らなくなる可能性もあります。
TeX 本体(エンジン)の方も進化を続けています。pdfTeX・XeTeX・LuaTeX といった後継エンジンが、PDF 直接出力・Unicode・OS フォント対応などを加えてきました。詳しくは「エンジン・フォーマット」の各ページを参照してください。
ライセンス — 無料で自由に
TeX も LaTeX も オープンソース で、商用利用も含めて自由に使えます。ただし、いくつか知っておくと安心な約束事があります。
- TeX 本体。 付加価値を付けて有償販売することも自由です。ただし TeX と 完全な互換性 を持たないものを「TeX」と名乗ってはいけない決まりで、たとえば pTeX は「TeX」とは名乗っていません。米国での TeX の商標は アメリカ数学会(AMS) が保有していますが、これは無関係な人による商標登録を防ぐためで、利用時に「TeX は…の商標です」と断る必要はありません。
- LaTeX。 LPPL(LaTeX Project Public License) に従います。改変したものの再配布も自由ですが、ファイル名を変える ことが条件です(改変版が元のファイルと取り違えられないようにするため)。
- 日本語の pLaTeX など。 在りし日の(株)アスキーが開発したものですが、現在は 日本語 TeX 開発コミュニティ によるコミュニティ版へ移行し、(修正)BSD ライセンス の下、著作権表示を残せば改変・再配布が自由です。
これらのライセンス(TeX のライセンス、LaTeX の LPPL、BSD)は、いずれも「The Open Source Definition」が定める意味でのオープンソースに合致しています。