ディストリビューション(TeX Live / MiKTeX / MacTeX)

TeX 本体やエンジン、無数のパッケージとフォントを一つにまとめ、すぐ使える形で配るのが ディストリビューション です。事実上の選択肢は三つ——どの OS でも動く本家の TeX Live、足りないパッケージをその場で取りに行く MiKTeX、TeX Live を macOS 向けに包んだ MacTeX。このページでは、それぞれが何者で、どこが違い、どう選ぶかを見ていきます。

ディストリビューションとは

LaTeX を動かすには、エンジン(pdfTeX・LuaTeX など)、\documentclass が読み込むクラスファイル、amsmath のような何千ものパッケージ、組版に使うフォント、latexmkbibtex といった補助プログラムが、すべて揃って噛み合っている必要があります。これらを一括で入れて初期設定まで済ませてくれるのがディストリビューションです。Linux でいう「ディストリビューション」と同じ発想で、TeX という一個のソフトではなく、TeX を中心とした エコシステム一式 を指します。

パッケージは世界中の作者が CTAN(Comprehensive TeX Archive Network)に集めており、ディストリビューションはその巨大なアーカイブから動作する組み合わせを選び、検証して配布します。だから自分でパッケージを一つずつ集める必要はありません。三つのディストリビューションのうち TeX Live と MacTeX は中身がほぼ同じ(MacTeX は TeX Live に Mac 用 GUI を足したもの)で、MiKTeX だけは独立した実装 です。

TeX Live — 本家・全 OS 共通

TeX LiveTeX Users Group(TUG) が中心となって維持する、事実上の標準ディストリビューションです。Windows・macOS・GNU/Linux・各種 Unix で動き、入っているエンジンもパッケージも各 OS で同一。日本語まわり(pTeX 系エンジン、jsclassesluatexja など)も最初から含まれているため、特別な追加なしに日本語の文書が組めます。

インストールは公式の **install-tl**(Windows では install-tl-windows.bat)というインストーラで行います。最初に選ぶのが インストールスキーム で、これは「どこまで入れるか」を決めた束です。既定かつ強く推奨されるのは **scheme-full**(すべて入れる)。ディスクに余裕がなければ scheme-medium / scheme-small / scheme-basic などの小さめのスキームも選べます。スキームは内部で「コレクション」を、コレクションが個々の「パッケージ」を束ねる入れ子構造で、インストール後に個別パッケージを足し引きするのは後述の tlmgr の仕事です。

terminal
# install-tl を起動し、対話メニューで scheme を選ぶ
# Run install-tl and pick a scheme in the interactive menu
perl install-tl

# 非対話で最初からスキームを指定する例
# Or specify the scheme up front, non-interactively
perl install-tl --scheme scheme-full

ネット接続が不安定なときや、何台にも入れたいときは、ISO イメージ からインストールできます。CTAN のミラーから約 6 GB の texlive2026.iso を入手してマウントし、中の install-tl(Windows なら install-tl-windows.bat)を実行すれば、ネットなしで全部入ります。

terminal
# Linux/Unix: ISO をマウントして中のインストーラを実行
# Linux/Unix: mount the ISO, then run the installer inside
sudo mount -t iso9660 -o ro,loop,noauto texlive2026.iso /mnt
cd /mnt && sudo perl install-tl

TeX Live で覚えておきたいのが 「年1回の凍結リリース」 という考え方です。版は毎年1回更新され(TeX Live 2026 は 2026 年 3 月 1 日に公開)、新版が出ると前年版はほぼ凍結されます。ISO の中身も公開後は更新されません。ただし年内であっても、インストール済みの環境は **tlmgr(TeX Live Manager)** でこまめに更新できます。

terminal
# 基盤(tlmgr 自身など)だけ更新 / update the infrastructure only
tlmgr update --self

# 基盤とすべてのパッケージを更新 / update infrastructure and all packages
tlmgr update --self --all

# DVD/ISO から入れた場合は、まず更新元をオンラインの tlnet に向ける
# After an offline (DVD/ISO) install, point updates at the online tlnet repo
tlmgr option repository https://mirror.ctan.org/systems/texlive/tlnet

OS ごとの具体的な手順(PATH の通し方を含む)は別ページ「デスクトップへのインストール」に、tlmgr の使い方の詳細は「パッケージ・フォント管理」にまとめています。ここでは仕組みの理解にとどめます。

MiKTeX — 必要なものをその場で

MiKTeX は Christian Schenk 氏が作った、もともと Windows 生まれ のディストリビューションです(現在は macOS・Linux にも対応)。最大の特徴は 「足りないパッケージをその場で自動インストールする(on-the-fly)」 こと。最初は小さく入れておき、文書のコンパイル中に未導入のパッケージが必要になると、MiKTeX が確認のうえ CTAN から取得して続行します。「必要十分な TeX(Just enough TeX)」という発想で、ディスクを使いすぎないのが身上です。

インストールは公式サイトから Basic MiKTeX Installer を入手して実行します。途中で 「現在のユーザーのみ(推奨)」か「全ユーザー共有」か を選び、用紙サイズや「不足パッケージを自動で入れるか(はい/いいえ/毎回確認)」を設定します。導入後の更新やパッケージ管理は、GUI の MiKTeX Console から行います。インストール完了画面でも、まず MiKTeX Console を開いて更新を確認するよう案内されます。

MiKTeX Console は「更新の確認とインストール」「パッケージの導入・削除」「フォーマットの再生成」「設定変更(自動インストールの可否など)」を一手に引き受け、共有インストール向けの 管理者モード も持ちます。なお自動インストールは便利な反面、初回コンパイルが少し待たされたり、オフライン環境やビルドの再現性が問われる場面(CI など)では裏目に出ることもあります。そうした用途では TeX Live を選ぶか、あらかじめ必要パッケージを入れておくとよいでしょう。

MacTeX — macOS 版 TeX Live + Mac の道具

MacTeX は、TUG の MacTeX ワーキンググループが配る macOS 向けインストールパッケージ です。中身は そのまま TeX Live(同じ年の版、同じパッケージ群)で、そこへ macOS で便利な GUI アプリ一式を加えてあります。.pkg 形式で Apple の署名・公証(notarize)済み、ダブルクリックで導入できるのが Mac 利用者にとっての利点です。

同梱される GUI アプリは /Applications/TeX/ に入り、定番の TeXShop(TeX 専用エディタ)、TeX Live Utility(後述の更新ツール)、LaTeXiT(数式を切り出して画像にする)、BibDesk(文献データベース管理)などがあります。MacTeX-2026 は約 6.4 GB で、macOS 11(Big Sur)以降(Tahoe=macOS 26 まで)に対応し、Apple シリコン・Intel の両方でネイティブに動きます。

フル版が大きすぎる、回線が細いといった場合は、小さな部分集合 BasicTeX(約 140 MB)があります。これは TeX Live の scheme-small 相当で、主要な3エンジン(pdfLaTeX・XeLaTeX・LuaLaTeX)で組版できる最小限が入っています。不足分は後から tlmgr で足せます。BasicTeX と MacTeX は同居できるので、まず BasicTeX で試すのも手です。

更新は中身が TeX Live なので tlmgr がそのまま使えますが、Mac では GUI の TeX Live Utility が用意され、tlmgr を裏で呼んで更新の確認・適用を視覚的に行えます(プログラム類は日次で更新を取得できます)。要するに MacTeX は「TeX Live + Mac の使い勝手」 だと捉えれば間違いありません。

比較して選ぶ

三つを並べると違いがはっきりします。容量は概算で、スキームや自動インストールの状況で大きく変わります。

対応 OSパッケージ導入更新ツール容量の目安
TeX LiveWindows / macOS / Linux / Unix最初に一括(scheme で選択)tlmgrフル約 7 GB
MiKTeXWindows(macOS / Linux も)不足分をその場で自動導入MiKTeX Console小さく始まり増える
MacTeXmacOS のみ(11 以降)最初に一括(= TeX Live)TeX Live Utility / tlmgr約 6.4 GB(BasicTeX 約 140 MB)
  • Windows で迷ったら:本家準拠で再現性を重視するなら TeX Live、ディスクを節約しつつ手軽に始めたいなら MiKTeX
  • macOS なら:MacTeX が標準。容量や回線が気になるなら BasicTeX から始めて tlmgr で足す。
  • Linux / Unix なら:TeX Live が基本(ディストリ同梱版は古いことがあるので、本家インストーラ版が無難)。
  • CI・Docker・オフライン など再現性が要るなら:自動取得に頼らない TeX Live が扱いやすい。
  • 日本語中心でも三つとも対応。TeX Live/MacTeX はそのまま、小さいスキームなら collection-langjapanese を追加します。