LaTeX のインストールが終わって最初に打つ確認コマンドは、たいてい pdflatex --version です。ところがそれが返すのは「pdfLaTeX」ではなく pdfTeX 3.141592653-2.6-1.40.26 (TeX Live 2024)。バージョン番号が円周率になっているのは冗談ではなく、クヌースが TeX の版を π に収束させると決めたからで、pdflatex が pdfTeX と名乗るのは pdflatex が pdftex へのシンボリックリンクそのもの だからです。このページでは Windows・macOS・Linux それぞれの導入手順を追い、入った版を確かめ、そして latex のパスが通らない という最頻出のつまずきを潰すところまでを扱います。現在の版は TeX Live 2026(2026 年 3 月 1 日公開)と MacTeX-2026 です。
インストーラを起動する前に決める二つのこと
決めるのは どれくらい入れるか(スキーム) と どこに入れるか の二つだけで、あとはインストーラが聞いてきます。スキームは既定の scheme-full が 8 GB 前後、中間の scheme-medium が 2 GB 弱、最小級の scheme-basic が 200 MB 強です。回線が細いときはフル導入のダウンロードと展開に 1 時間以上かかることも珍しくありません。どのスキームがどこまで含むか、そもそも TeX Live と MiKTeX のどちらを入れるかは「ディストリビューション」のページで比べていますので、ここでは 決めたあとの作業 に集中します。
Windows に LaTeX をインストールする
Windows は三つの OS のなかで もっとも手がかからない プラットフォームです。TeX Live なら tug.org から install-tl-windows.exe(約 20 MB。中身が同じ install-tl.zip でも構いません)を落として実行するだけ。これはネットインストーラで、起動後に CTAN のミラーから本体を落としながら入れていきます。導入先の既定は C:\texlive\2026、スキームは GUI で選べます。そして肝心なのは、Windows ではインストーラが PATH を自動で設定してくれる ことです(既に別の TeX が PATH にあれば先頭に、なければ末尾に追加されます)。終わったら 新しいコマンドプロンプトを開き直して ください。開きっぱなしの窓は古い PATH を握ったままです。
REM Verify in a NEW Command Prompt after the installer finishes
where pdflatex
pdflatex --version
tlmgr --versionMiKTeX を選ぶ場合は miktex.org の Download から Basic MiKTeX Installer(.exe)を入手して実行します。ウィザードが聞いてくるのは主に三つ——現在のユーザーのみ(推奨)か全ユーザー共有か、用紙サイズ、そして 不足パッケージを自動で入れるか(Always / Ask me first / Never) です。共有インストールは管理者権限が要り、しかも自動取得したパッケージは各ユーザ側に落ちるので、単独の PC なら「現在のユーザーのみ」が素直です。終わったら MiKTeX Console を起動し、まず Updates を確認するのが定石。研究室の何十台かに無人で配りたいときは、miktexsetup を使ったサイレントインストールが用意されています。
macOS に LaTeX をインストールする(MacTeX)
macOS の標準は MacTeX です。tug.org から MacTeX.pkg(約 6.4 GB)を落としてダブルクリックし、案内に従うだけ。Apple の署名・公証済みなので Gatekeeper で止まりません。TeX 本体は /usr/local/texlive/2026 に入り、GUI アプリ(TeXShop・BibDesk・LaTeXiT・TeX Live Utility)は /Applications/TeX/ に置かれます。MacTeX-2026 は macOS 11(Big Sur)以降 に対応し、Intel でも Apple シリコンでもネイティブに動きます(Catalina 以前は非対応)。
PATH については macOS がいちばん気が利いています。MacTeX はバイナリのディレクトリ(/usr/local/texlive/2026/bin/universal-darwin)を直接 PATH に入れる代わりに、/Library/TeX/texbin という固定のシンボリックリンクを有効な版のバイナリへ向けます。この Mac で実際に辿ると /Library/TeX/texbin → Distributions/Programs/texbin → 現在の年版の bin という鎖になっていて、/etc/paths.d に置かれたファイルが /Library/TeX/texbin を既定の PATH に加えています。おかげで 新しいターミナルを開けばそのまま使え、来年の版に入れ替えても設定ファイルを直す必要がありません。いま開いているシェルで即使いたいときは、path_helper を呼んで PATH を作り直します。
# Refresh PATH in the current shell, then verify
eval "$(/usr/libexec/path_helper)"
which pdflatex # -> /Library/TeX/texbin/pdflatex
pdflatex --versionGUI アプリが不要でコマンドラインだけで足りるなら、Homebrew が早い道です。mactex は GUI アプリ込み、mactex-no-gui は同じ TeX Live から GUI を抜いたもの、basictex はさらに小さい最小構成(GUI も Ghostscript も含まず、/usr/local/texlive/2026basic に入ります)。エディタは VS Code などを別に使う人が多いので、実際には mactex-no-gui が選ばれがちです。
# Full TeX Live without the GUI apps (the usual Homebrew choice)
brew install --cask mactex-no-gui
# Or the full bundle with GUI apps
# brew install --cask mactex
# Or a small starter install
# brew install --cask basictexLinux / Unix にインストールする
Linux/Unix では 公式インストーラ install-tl を使うのが素直です。install-tl-unx.tar.gz を取得して展開し、付属の Perl スクリプトを実行します。既定の導入先は /usr/local/texlive/2026 で、そこへ書き込むには sudo が要ります(sudo を使いたくない場合は、対話メニューの D(directories)で導入先を ~/texlive/2026 のようなホーム配下に変えれば、権限の問題は消えます)。テキスト UI ではなく GUI で進めたい なら perl ./install-tl -gui で Tcl/Tk 版が立ち上がり、全部おまかせでよければ --no-interaction で対話なしに既定構成が入ります。
# Download, unpack and run the official net installer
cd /tmp
curl -LO https://mirror.ctan.org/systems/texlive/tlnet/install-tl-unx.tar.gz
zcat < install-tl-unx.tar.gz | tar xf -
cd install-tl-*
sudo perl ./install-tl # interactive text installer
# sudo perl ./install-tl -gui # Tcl/Tk installer instead
# sudo perl ./install-tl --scheme scheme-medium --no-interactionUnix では PATH を自分で通します。Windows と違い自動設定はありません。バイナリのディレクトリ名は CPU で変わり、64bit の Intel/AMD なら /usr/local/texlive/2026/bin/x86_64-linux、この Mac のように macOS なら universal-darwin です。名前を覚えていなくても心配は要りません——インストーラは終了直前に、追記すべき行をそのまま印字します。man ページと info ページのパスも一緒に出るので、三行まとめてシェルの起動ファイル(zsh なら ~/.zshrc、bash 系なら ~/.profile か ~/.bashrc)に写します。
# Add to ~/.profile or ~/.bashrc; the folder name follows your CPU
export PATH="/usr/local/texlive/2026/bin/x86_64-linux:$PATH"
export MANPATH="/usr/local/texlive/2026/texmf-dist/doc/man:$MANPATH"
export INFOPATH="/usr/local/texlive/2026/texmf-dist/doc/info:$INFOPATH"
# Then reload and check
. ~/.profile
which pdflatexネット越しの導入が現実的でないとき——回線が細い、研究室の何十台に配る、そもそもインターネットに出られない——は、年次の ISO イメージ から入れられます。CTAN のミラーから約 6 GB の ISO を取得してマウントし、中の install-tl(Windows なら install-tl-windows.bat)を実行すれば、ネット接続なしで全部入ります。ただし ISO の中身は公開後に更新されないので、入れ終えたら更新元をオンラインの tlnet に向け直すのを忘れないでください。
# Offline install from the yearly ISO image (Linux/Unix)
sudo mount -t iso9660 -o ro,loop,noauto texlive.iso /mnt
cd /mnt && sudo perl install-tl
# Afterwards, send updates back to the online repository
tlmgr option repository https://mirror.ctan.org/systems/texlive/tlnet入ったか確かめる——which pdflatex と pdflatex --version
確認は三段構えで、「呼ばれるのはどれか」「それは何年版か」「どのツリーに属するか」 を順に潰します。which pdflatex(Windows は where pdflatex)が実際に走る実行ファイルの場所を返し、pdflatex --version が pdfTeX 3.141592653-2.6-1.40.26 (TeX Live 2024) のように 年版まで含めて 名乗ります。ただし実行ファイルの場所だけでは足りません。決め手になるのは kpsewhich -var-value=SELFAUTOPARENT で、これは その実行ファイルが実際に使う TeX ツリーの根 を返します。この Mac では /usr/local/texlive/2024 が返ってきます。バイナリと参照ツリーがずれている環境では、この一行が真っ先に嘘を暴きます。
# 1. which binary runs, 2. which release it is, 3. which tree it uses
which pdflatex
pdflatex --version
kpsewhich -var-value=SELFAUTOPARENT
# On Windows, replace the first line with:
# where pdflatex最後に、本当に組版できるかを一度だけ試します。小さな .tex を作ってコンパイルし、PDF が出ればインストールは完了です。ここでエラーが出た場合、原因はほぼ確実に PATH ではなく作業ディレクトリの書き込み権限か、ファイル名に混じった全角文字です。
printf '\\documentclass{article}\\begin{document}Hello, \\LaTeX!\\end{document}' > hello.tex
pdflatex hello.tex
# -> produces hello.pdflatex コマンドが見つからない・古い年版が動いてしまう
which や where が 何も返さない なら PATH が通っていません。何かを返すのに挙動がおかしいなら、返ってきたパスをよく見てください。LaTeX のパスが通らない と表現される症状は、実際には次の三つのどれかです。一つ目は 端末を開き直していない(設定は変えたが、そのシェルは古い PATH を握ったまま)。二つ目は 古い年版のツリーを指したまま——去年 ~/.zshrc に /usr/local/texlive/2025/bin/... と書き、今年の版を入れたのにその行が残っている、というのが典型で、/usr/local/texlive/2025 を消したあとなら command not found、消していなければ去年の版が静かに動き続けます。三つ目が 二つの TeX が同居して先頭争いをしている 状態です。
三つ目がいちばん厄介で、pdflatex は TeX Live、bibtex は OS パッケージ版、tlmgr は古い MacTeX、という状態が起こりえます。本人は一つの原稿を処理しているつもりでも、道具はそれぞれ別の木を見ています。which を何度も打つ代わりに、tlmgr conf を一度打つ のが確実です。このコマンドは PATH を検索して見つけた pdftex・xetex・luatex・dvips・dvipdfmx・kpsewhich・fmtutil・updmap・tlmgr の実体を一覧にし、続けて有効な設定ファイルとフォントマップの場所まで印字します。一行でも他と違うツリーを指していたら、そこが原因 です。
# One command that resolves every core tool at once
tlmgr conf
# Look for a line whose path differs from the others, e.g.
# pdftex: /usr/local/texlive/2026/bin/universal-darwin/pdftex
# bibtex: /usr/bin/bibtex <- a different install!
# The manual equivalent, if tlmgr itself is the thing you distrust
which pdflatex
which lualatex
which tlmgr- 設定を書き換えたら、必ず 端末を開き直す か起動ファイルを読み直す。開きっぱなしの端末は古い PATH のままです。
- 既存の TeX がある PC に入れる前に、
which pdflatexの結果を控えておく。何が変わったかが後で分かります。 - PATH に同じディレクトリが二度出ても害はありません。害があるのは、別のツリーを指す行が先頭に居座っている場合です。
- 公式 TeX Live を使うなら、あとから
aptのtexlive-*を足さない。二つの木ができて先頭争いが始まります。 - MiKTeX を使うなら、更新もパッケージ追加も MiKTeX Console に寄せる。
tlmgrは MiKTeX を管理しません。