アクセント類

café の é、Gauß の ß、señor の ñ。欧文には、文字の上下に付く アクセント記号(ダイアクリティカルマーク) がつきものです。LaTeX はこれらを命令で組めます。たとえば \'{o} と書けば ó、\~{n} と書けば ñ。このページでは本文(テキストモード)のアクセント命令を一覧にし、あわせて「現代の LaTeX なら é や ñ を 直接タイプできる」という大切な点と、fontenc の設定までを扱います。

アクセント命令の形

テキストモードのアクセントは、1 文字の命令に、アクセントを乗せたい文字を引数として渡す 形をとります。たとえば鋭アクセント(acute)は \'、引数は {o} で、\'{o} と書くと ó になります。引数が 1 文字なら波かっこは省け、\'o とも書けますが、\'{o} のように 明示的に囲む 方が、どこまでが引数か曖昧にならず安全です。

命令には大きく 2 種類あります。\' ` \ ` \^ \~ \" のように **記号がそのまま命令名** になっているもの(句読点系)と、\c \v \u \H のように **英字 1 文字** が命令名のものです。後者は英字なので、\c c(セディーユ付き c → ç)のように **直後に空白** を入れるか波かっこで区切らないと、\cc という別の命令と解釈されてしまいます。波かっこ \c{c}` を使えばこの心配はありません。

注意したいのは、これらは テキストモード専用 だということ。数式の中で文字に記号を乗せるには \hat{x}\tilde{x}\bar{x} などの 数式用アクセント を使います(別ページ「上下に付けるもの」で扱います)。本文の \^ と数式の \hat は別物なので混同しないでください。

アクセント命令の一覧

本文で使える主なアクセント命令を、例と記号名でまとめます。各行の見出しは命令そのもの(例:鋭アクセントは \')、続いて {o} などに適用した出力例と、その記号の名前です。

命令記号名
\'ó鋭アクセント(acute)
\`ò重アクセント(grave)
\^ô曲折アクセント(circumflex / hat)
\"öウムラウト/分音符(dieresis)
\~ñチルダ(tilde)
\=ōマクロン/長音符(macron)
\.ȯ上ドット(dot over)
\uŏブレーヴェ(breve)
\včハーチェク/キャロン(caron / háček)
\Hő二重鋭アクセント(Hungarian umlaut)
\cçセディーユ(cedilla, 下)
\kąオゴネク(ogonek, 下)
\råリング(ring over)
\b下線(bar under)
\d下ドット(dot under)
\to͡o連結記号(tie, 2 文字に掛ける)

末尾の 3 つは少し特殊です。\b は下線(bar under)、\d は下ドット(dot under)で、いずれも文字の に付きます。\t は 2 文字をまたぐ連結記号(tie)で、\t{oo} のように 2 文字 を引数にとります(キリル文字のローマ字転写などで使います)。なお \c\k\b\d\t など下に付くものや特殊なものは、fontenc の T1 エンコーディング(後述)を読み込んでおくと確実です。

ドットなしの i・j

i や j にアクセントを乗せるときは、ひと工夫いります。これらの文字はもともと上に点があるので、その上にさらにアクセントを置くと点と記号が重なってしまいます。そこで、点のない ドットレス i \i(ı)と ドットレス j \j(ȷ)が用意されています。アクセントはこちらに乗せます。

たとえば鋭アクセント付きの i は \'{\i} と書き、í になります(\'{i} だと点の上に乗ってしまいます)。これは命令の引数に別の命令 \i を渡している形です。なお、現代の LaTeX で í を 直接タイプ した場合は、エンジン側が自動でドットを処理するため、この心配は不要です(次節)。

latex
% accenting i and j: use the dotless forms
Na\'{\i}ve, \^{\j}   % gives  Naíve  and  ĵ

% compare: plain \'{i} would stack on the dot

現代の LaTeX では直接タイプできる

ここが最も大切な点です。現在の LaTeX は UTF-8 が既定 で(TeX Live 2018 以降)、ソースファイルに é や ñ、ö、ß を そのまま打ち込めば そのまま組まれます。アクセント命令を覚えていなくても、キーボードや IME から直接入力すれば済むことがほとんどです。2018 年より前は \usepackage[utf8]{inputenc} を明示的に書く必要がありましたが、今は不要です(書いても害はありません)。

ただし pdfLaTeX を使う場合は、\usepackage[T1]{fontenc}読み込んでおくのが強く推奨 されます。理由は二つ。第一に、既定の OT1 エンコーディングにはアクセント付き文字が単一の字として含まれず、\accent合成 されるため、その語が ハイフネーション(行末での適切な分割)されません。T1 ならアクセント付き文字が 1 つの字として扱われ、正しく分割されます。第二に、1 つの字として出力されることで、PDF からの コピー&ペーストや検索 も期待どおりになります。

一方、LuaLaTeX や XeLaTeX はもともと Unicode と OS フォントを前提とするため、fontenc の設定はほぼ不要で、fontspec でフォントを選べばアクセント付き文字をそのまま扱えます。日本語と欧文を混ぜる場合の全体像は「TeX・LaTeX と日本語」を参照してください。要するに、pdfLaTeX なら T1 を読み込む/Lua・XeLaTeX なら気にしない、と覚えておけば十分です。

document.tex
\documentclass{article}
\usepackage[T1]{fontenc}   % pdfLaTeX: glyphs + hyphenation
% (UTF-8 input is the default since 2018; no inputenc needed)
\begin{document}
Un café à Montréal, señor Gauß.
\end{document}

言語特有の文字

アクセントを文字に乗せるのではなく、それ自体が独立した字 になっているものもあります。これらは引数をとらず、命令そのものが 1 文字を表します。代表的なものを挙げます。

命令文字用例・言語
\oeœフランス語の合字(cœur)
\aeæラテン語・北欧語の合字
\oøデンマーク語・ノルウェー語
\aaåスカンジナビア諸語
\ssßドイツ語のエスツェット
\lłポーランド語の barred L

大文字版は \OE(Œ)、\AE(Æ)、\O(Ø)、\AA(Å)、\L(Ł)です。さらに fontenc の T1 などを読み込めば、\dh(ð)・\th(þ)・\dj(đ)・\ng(ŋ)といったアイスランド語・クロアチア語などの文字も使えます(これらは既定の OT1 では使えません)。もっとも、ここでも近道は同じで、UTF-8 ソースに œ や ß を直接打ち込む のが手軽です。

実例

いくつかの語を、アクセント命令で組んでみます。左がコマンド表記、コメントが出力です。直接タイプできる環境なら、同じ結果を résuménaïveGauß とそのまま打って得られます。

latex
r\'{e}sum\'{e}        % résumé
na\"{\i}ve            % naïve   (dotless i under the dieresis)
se\~{n}or             % señor
G\"{o}del, Gau\ss{}   % Gödel, Gauß
\^{a}ge, \c{c}a va     % âge, ça va
\H{o}r\'{a}n          % őrán    (Hungarian double acute)

まとめると、記号は命令の引数に文字を渡して乗せる(i・j はドットなしの \i\j を使う)、独立した字は専用命令\ss など)、そして何より 現代の LaTeX なら直接タイプが最短、pdfLaTeX では \usepackage[T1]{fontenc} を忘れずに——これだけ押さえれば実務で困りません。