本文(テキストモード)のなかで、© や ®、™、€、‰、°、•、§ といった記号や、チェックマーク・ブランドアイコンを出したいことがあります。これらは数式とは別系統で、いくつかのパッケージが分担しています。要は四つ。LaTeX 標準の TS1(textcomp) 記号、Zapf Dingbats を番号で呼ぶ **pifont、何千ものアイコンを名前で呼ぶ fontawesome5、そして日本語の丸数字や異体字を扱う otf** 系です。このページは、それぞれをどの場面で・どのエンジンで使えるかを整理し、引きやすい一覧表にまとめます。
テキスト記号という考え方
まず押さえたいのは、ここで扱う記号が 数式モードではなく地の文で使う ものだということです。\alpha などのギリシャ文字や \times のような演算子は数式モード($ ... $)のなかで使いますが、著作権表示の © や温度の ℃ は文章の一部として本文に直接置きます。だから命令も \textcopyright・\textdegree のように text で始まるものが中心になります。
もう一つ、エンジンによって使えるものが変わる点が大切です。textcomp の記号と pifont は どのエンジンでも(pdfLaTeX でも)動きます。fontawesome5 は pdfLaTeX なら無料アイコンが使え、全アイコンや太さ違いを完全に出すには XeLaTeX か LuaLaTeX(Unicode エンジン)が要ります。日本語の otf パッケージは pLaTeX/upLaTeX 専用 で、pdfLaTeX では使えません(LuaLaTeX では luatexja-otf、XeLaTeX では zxotf が同じ役割を担います)。表の右端にこの対応を添えておきます。
textcomp(TS1)の記号
© ® ™ € ‰ ° ℃ • ¶ § ¥ ¢ £ といった「文章に出てくる記号」は、TS1(Text Companion)エンコーディング にまとめられています。歴史的にはこれを使うのに \usepackage{textcomp} が必要でしたが、2020 年以降の LaTeX カーネルでは TS1 が標準で読み込まれ、\textcopyright などは追加のパッケージなしで使えます(古い環境や明示のために \usepackage{textcomp} と書いても無害です)。命令はすべて本文中にそのまま置けます。
% TS1 はカーネルに含まれる(textcomp の明示読み込みは任意)
% \usepackage{textcomp}
Foo\textregistered{} is a trademark of Bar Inc.\texttrademark
\copyright\ 2026 / \textcopyright\ 2026. % どちらも ©
40\textperthousand, \quad 25\textcelsius, \quad 90\textdegree注意したいのは記号のあとの空白です。\textregistered のような制御綴は後ろの空白を食べてしまうので、語の途中で使うなら \textregistered{} と空の波括弧を付けるか \ を入れて、続く文字とくっつくのを防ぎます。なお \copyright(©)と \pounds(£)は TS1 とは別に LaTeX 標準でも定義されていて、\textcopyright・\textsterling と同じ字を出します。
| 命令 | 記号 | 意味・備考 |
|---|---|---|
\textcopyright | © | 著作権(\copyright も同じ) |
\textregistered | ® | 登録商標 |
\texttrademark | ™ | 商標 |
\textservicemark | ℠ | サービスマーク |
\texteuro | € | ユーロ(eurosym も。後述) |
\textcent | ¢ | セント |
\textsterling | £ | ポンド(\pounds も同じ) |
\textyen | ¥ | 円・元 |
\textperthousand | ‰ | パーミル(千分率) |
\textdegree | ° | 度(角度・温度) |
\textcelsius | ℃ | セ氏度(°C の合字) |
\textbullet | • | 中黒・箇条点 |
\textsection | § | 節記号(\S も同じ) |
\textparagraph | ¶ | 段落記号(\P も同じ) |
\textbrokenbar | ¦ | 破断線(途切れた縦棒) |
\textmusicalnote | ♪ | 音符 |
\textestimated | ℮ | 推定記号(包装の e マーク) |
ところで、TS1 の話とよく混同されるのが \textbackslash(\ そのもの)と \textasciitilde(~ そのもの)、\textbar(| そのもの)です。これらは TS1 ではなく LaTeX 標準 の命令で、textcomp の有無に関係なく使えます。\・~・| は LaTeX で特別な意味を持つため、文字としてそのまま出すにはこれらの命令を使う、という別の話題です(詳しくは「特殊文字」のページ)。
ユーロ記号 € については、\texteuro(TS1)のほかに専用パッケージ **eurosym** があります。\usepackage{eurosym} で \euro が使え、欧州委員会の公式デザインに近い字形が得られます(official・gen などのオプションで字形を選択)。本文用フォントの € で十分なら \texteuro、ロゴ的に整った € が欲しいなら eurosym、と使い分けます。
pifont(Zapf Dingbats)
チェックマークやハサミ、矢印、星といった装飾的な絵記号は、Zapf Dingbats(ZapfDingbats) というフォントにまとまっています。これを LaTeX から呼ぶのが pifont パッケージで、\usepackage{pifont} のあと、グリフを番号で指定 して \ding{NN} と書きます。たとえば \ding{52} はチェックマーク、\ding{56} はバツ印(ballot X)です。番号と字の対応はフォント固有なので、一覧から拾って使います。
\usepackage{pifont}
% ...
\ding{52}\ % チェック
\ding{56}\ % バツ
\dingline{56} % その記号で 1 行ぶんの罫を引く
\begin{dinglist}{43} % 各項目の先頭をその記号にした箇条書き
\item りんご
\item みかん
\end{dinglist}pifont には番号指定以外の便利命令もあります。\dingline{NN} はその記号を横に並べて 1 行の飾り罫を作り、\dingfill{NN} は行内の余白をその記号で埋めます。dinglist 環境は、各項目の行頭記号にダイン文字を使った箇条書きで、dingautolist 環境を使うと番号を 1 ずつ増やして連番の囲み数字などを並べられます。汎用には、ZapfDingbats 以外の Pi フォントも \Pisymbol{フォント}{番号} で同様に呼べます。
| 記法 | 出るもの | 備考 |
|---|---|---|
\ding{52} | ✓(チェック) | 番号 52 |
\ding{55} | ✕(×印) | 番号 55 |
\ding{56} | ✗(バツ・ballot X) | 番号 56 |
\ding{43} | ☞(右を指す手) | 番号 43 |
\ding{170} | ★(黒い星) | 番号 170 |
\dingline{NN} | その記号の飾り罫(1 行) | 番号で記号を指定 |
\dingfill{NN} | 行内をその記号で埋める | \hfill の記号版 |
dinglist (環境) | 行頭記号がダインの箇条書き | \begin{dinglist}{NN} |
\Pisymbol{psy}{NN} | Symbol フォントの記号 | 汎用の Pi フォント呼び出し |
fontawesome5(アイコン)
GitHub や Twitter のロゴ、歯車・封筒・電話といった UI アイコンを文章に入れたいときは、**fontawesome5** パッケージが便利です。\usepackage{fontawesome5} を読み込むと、数千種のアイコンが使えます。呼び出し方は二通り。アイコン名を **キャメルケースにして fa を冠した** 専用命令(\faGithub、\faTwitter、\faAddressBook)か、公式名を波括弧で渡す 汎用命令 \faIcon{github} です。
\usepackage{fontawesome5}
% ...
Source: \faGithub\ github.com/example \quad \faTwitter\ @example
\faIcon{envelope}\ mail \qquad \faIcon[regular]{heart} % 線画スタイル
\faPython \quad \faIcon{rocket}アイコンには solid(既定の塗り)・regular(線画)・brands(ロゴ) のスタイルがあり、\faIcon[regular]{heart} のように省略可能引数でスタイルを選びます(ブランドロゴは自動的に brands 扱い)。エンジンには注意が必要です。pdfLaTeX では無料セット(Font Awesome 5 Free) が使え、ほとんどの用途はこれで足ります。一方、全アイコンやスタイルを完全に出す・有償の Pro セットを使うには XeLaTeX か LuaLaTeX(Unicode エンジン)が必要です。
| 命令 | 出るもの | スタイル・備考 |
|---|---|---|
\faIcon{name} | 公式名でアイコンを呼ぶ汎用命令 | [solid]/[regular]/[brands] 指定可 |
\faGithub | GitHub ロゴ | brands(ブランド) |
\faTwitter | Twitter ロゴ | brands |
\faPython | Python ロゴ | brands |
\faEnvelope | 封筒(メール) | solid/\faIcon{envelope} と同じ |
\faCog | 歯車(設定) | solid |
\faCheck | チェックマーク | solid |
\faIcon[regular]{heart} | ハート(線画) | regular スタイルの例 |
日本語の記号:otf パッケージ
日本語の組版では、丸数字 ①②③ や囲み数字、ローマ数字 Ⅰ Ⅱ Ⅲ、そして同じ漢字の異体字(﨑・髙など)を出したい場面があります。これを担うのが **otf(japanese-otf)パッケージ** です。\usepackage{otf} を読み込むと、Adobe-Japan1 のグリフを呼ぶ命令群が使えます。ただし otf は pLaTeX/upLaTeX 専用(DVI 経由で dvipdfmx を使う)です。LuaLaTeX では luatexja-otf、XeLaTeX では zxotf が同等の役割を果たします。
丸囲み・角囲みの数字は、番号を引数に渡して作ります。\ajMaru{3} は丸数字の ③、\ajKaku{3} は角囲みの数字、\ajKuroMaru{3} は白抜きの黒丸数字です。ローマ数字は \ajRoman{3} で大文字の Ⅲ、\ajroman{3} で小文字の ⅲ、丸括弧つきは \ajKakko{3} で (3) のように出ます。引数は数字で、対応する囲み数字グリフが選ばれます。
異体字や、命令の用意されていないグリフは、Unicode の符号位置(コードポイント)で直接呼ぶ \UTF{XXXX} が要になります。たとえば \UTF{FA11} は「﨑」(崎の異体字)です。引数は 4〜5 桁の 16 進数。Adobe-Japan1 の CID 番号で直接指定する \CID{番号} もあります。人名の異体字(﨑・髙・𠮷 など)を正しく出したいときは、まず \UTF を試すのが定石です。なお otf には deluxe(多ウェイト)・expert(縦横で字形変化)・jis2004(JIS2004 字形)といったオプションもあります。
% pLaTeX / upLaTeX 専用(dvipdfmx で PDF 化)
\documentclass{ujarticle}
\usepackage[deluxe]{otf}
\begin{document}
手順は \ajMaru{1}\ajMaru{2}\ajMaru{3} の順に進める。
第 \ajRoman{3}\ 章。\quad 注 \ajKakko{1}
山\UTF{FA11}\ さん(﨑), \ 髙\UTF{9AD9} 橋。 % 異体字を符号位置で
\end{document}| 命令 | 出るもの | 備考 |
|---|---|---|
\ajMaru{3} | ③(丸数字) | 引数は数字 |
\ajKuroMaru{3} | ❸(黒丸数字) | 白抜き |
\ajKaku{3} | ③の角囲み版 | 四角で囲んだ数字 |
\ajRoman{3} | Ⅲ(大文字ローマ数字) | \ajroman は小文字 ⅲ |
\ajKakko{3} | (3)(丸括弧つき数字) | 括弧囲み |
\UTF{FA11} | 﨑(異体字) | 4〜5 桁の 16 進コードポイント |
\CID{13706} | 指定 CID のグリフ | Adobe-Japan1 の CID 番号 |
まとめると、欧文の記号(© ® ™ €…)は textcomp(=LaTeX 標準)、絵記号は pifont の \ding、UI・ブランドアイコンは fontawesome5 の \faIcon、日本語の丸数字や異体字は otf の \ajMaru/\UTF、という住み分けです。エンジン依存だけは取り違えないようにしましょう——textcomp・pifont はどこでも、fontawesome5 は全機能なら Unicode エンジン、otf は pLaTeX/upLaTeX です。