記号網羅(amssymb・一覧)

「この記号、LaTeX でどう打つんだろう」——数式を書いていれば必ずぶつかる問いです。答えにたどり着く道具立ては、だいたい四つに絞れます。まず標準 LaTeX に無い記号の大半を補う **amssymb パッケージ。次に、パッケージ別・分野別に約 2 万 5 千もの記号を一覧した Comprehensive LaTeX Symbol List(Scott Pakin)。記号を 手で描いて命令名を探す Detexius(Detexify)。そして単位や温度など立体の記号を数式モードで使う mathcomptextcomp**。このページは、個々の記号表ではなく、その「記号を見つけるための道具箱」を整理し、分野別の詳しい一覧ページへ橋渡しします。

amssymb — 標準の次に読み込むもの

探している記号が標準 LaTeX に無いとき、**最初に試すべきが amssymb** です。アメリカ数学会(AMS)が用意したパッケージで、プリアンブルに \usepackage{amssymb} と一行書くだけで、数百の追加記号が使えるようになります。amsmath とは別物で、amsmath が数式の 構造(整列環境や分数まわり)を担うのに対し、amssymb記号そのもの を増やすパッケージだと考えると整理しやすいでしょう。

仕組みを少しだけ。amssymb を読み込むと、内部で AMSFontsamsfonts パッケージが呼ばれ、msammsbm という二つの AMS 記号フォントが使えるようになります。amssymb.sty はそれらのフォントに入った字に 命令名を与える ファイルです。したがって \usepackage{amssymb} 一つで、amsfonts が提供する \mathbb(黒板太字)・\mathfrak(フラクトゥール)や、\checkmark\hbar といった記号もまとめて手に入ります(これらは厳密には amsfonts 側の定義ですが、amssymb がそれを読み込むため別途指定は不要です)。

amssymb が増やす記号は大きく五つの仲間に分かれます。これを頭に入れておくと、目当ての記号がここにありそうか見当がつきます。

  • 追加の関係子。 \leqslant(斜めの「以下」)・\geqslant\lesssim\gtrsim、二重線の \subseteqq\supseteqq など、標準の関係子の異体字や仲間。
  • 否定された関係子。 \nleq(以下でない)・\ngeq\nsim\nsubseteq\nmid(割り切らない)など、最初からスラッシュが描かれた専用記号。
  • 追加の矢印。 \twoheadrightarrow(二又=全射)・\rightrightarrows(二本並び)・\rightsquigarrow(波線)・\dashrightarrow(破線)など装飾的な矢印。
  • 雑記号。 \varnothing(丸い空集合)・\square\blacksquare\complement(補集合)・\nexists\circledast など。
  • ヘブライ文字。 \beth\gimel\daleth(基数で使う)。なお \aleph だけは標準 LaTeX にあります。
latex
\usepackage{amssymb}   % 追加の関係子・否定・矢印・雑記号・ヘブライ文字
% ...
\[ 0 \leqslant x \lesssim 1, \qquad a \nmid b, \qquad A \subseteqq B \]
\[ f \colon X \twoheadrightarrow Y, \qquad \varnothing \ne S, \qquad \aleph_0 < \beth_1 \]

amssymb の関係子と否定(代表例)

関係子の異体字と否定形は、amssymb のなかでも特に出番が多い仲間です。下に代表的なものを挙げます(網羅ではありません。すべて amssymb が必要)。「以下」を斜めの \leqslant(⩽)で組むのは数学で広く好まれ、否定には \not\leq のような即席の打ち方より、最初からスラッシュの入った専用記号を使うほうが字形が整います。

命令字形意味(すべて amssymb)
\leqslant以下(斜めの異体字)
\geqslant以上(斜めの異体字)
\lesssimおおむね以下(近似的に小さい)
\gtrsimおおむね以上
\subseteqq部分集合(二重線の等号つき)
\nleq以下でない
\ngeq以上でない
\nsim相似でない
\nsubseteq部分集合でない
\nmid割り切らない(整除の否定)
\nparallel平行でない

専用の否定記号が無い関係子は、前に **\not** を置いて即席に否定できます(例:\not\equiv)。ただし \not のスラッシュは大きさ・傾きが固定で、記号によっては不格好に重なります。**\ne(≠)と \notin(∉)は標準 LaTeX に専用命令がある** ので、これらは amssymb\not も不要です。関係子クラスとしての空き方や \not の詳しい使い方は「関係子」のページで扱っています。

amssymb の矢印・雑記号・ヘブライ文字

残りの三つの仲間も代表例を挙げておきます(すべて amssymb)。矢印では、全射を表す二又の \twoheadrightarrow(↠)や単射の尾つき \rightarrowtail(↣)、波線の \rightsquigarrow(⇝)あたりがよく使われます。雑記号では、丸い空集合 \varnothing(∅)や、証明終わりの □ に使う \square、補集合の \complement が定番です。

命令字形意味・備考(すべて amssymb)
\twoheadrightarrow二又の右矢印。全射に
\rightarrowtail尾つきの右矢印。単射に
\rightrightarrows右向き二本並びの矢印
\rightsquigarrow波線の右矢印
\varnothing丸い空集合(標準 \emptyset の異体)
\square白四角/証明終わり(QED)
\blacksquare黒四角
\complement補集合(上付き c の記号)
\nexists存在しない(∃ の否定)
\checkmarkチェックマーク(amsfonts 由来)
\bethヘブライ文字ベート(基数)
\gimelヘブライ文字ギメル
\dalethヘブライ文字ダレット

ヘブライ文字は集合論の基数(無限の濃度)で使われます。\aleph(ℵ)だけは標準 LaTeX にありますが、続く **\beth\gimel\dalethamssymb が必要** です。なお \digamma(ϝ)・\varkappa(ϰ)といったギリシャ文字の異体字も amssymb の提供です(ギリシャ文字のページ参照)。各仲間の網羅的な一覧は、「矢印」「雑記号」「関係子」の各ページにあります——このメタページは「どこを見ればよいか」を示す入り口です。

Comprehensive LaTeX Symbol List(網羅の決定版)

amssymb にも無い記号——あるいは「どのパッケージに入っているのか」を突き止めたいとき——の決定版が、Scott Pakin による The Comprehensive LaTeX Symbol List です。LaTeX から使える記号を パッケージ別・分野別 に並べた一覧で、収録数は版を追って増え続け、2026 年時点で 約 2 万 5 千 に達しています(2020 年の約 1 万 4 千 6 百から大きく増えました)。各記号について、字形・命令名・必要なパッケージが表で示され、巻末には索引も付きます。

TeX Live や MiKTeX には標準で同梱されているので、ネットに繋がなくても手元で開けます。端末で次のように打つと、インストール済みの PDF がビューアで開きます。CTAN では comprehensive という名前で、PDF のファイル名は symbols-a4.pdf(A4 用)と symbols-letter.pdf(レター用)です。

terminal
# インストール済みの「記号網羅一覧」を開く / open the installed symbol list
texdoc comprehensive

# ファイル名を直接指定してもよい / or name the file directly
texdoc symbols-a4

使い方のコツは、分野(topic)の章から当たりをつけ、パッケージ別の表で命令名を確認する ことです。たとえば「電気回路の記号」「チェスの駒」「天文の記号」といった分野横断の記号も、ここなら載っています。ただし収録記号の多くは 専用フォントやパッケージを別途インストール して初めて使える点に注意してください。一覧の冒頭にも、すべてが標準環境で使えるわけではない旨が明記されています。ライセンスは LPPL(LaTeX Project Public License)です。

Detexify — 描いて命令を探す

記号の名前も分野も分からないけれど 形だけは分かる——そんなときに便利なのが Detexify です。Daniel Kirsch によるウェブアプリで、枠のなかにマウスや指で記号を描くと、形の近い LaTeX 命令の候補を順に挙げてくれます。「この曲がった矢印、なんという命令だっけ」という場面で、紙の一覧を端から探すより圧倒的に速いことがあります。

候補には、その命令が標準 LaTeX か、あるいは amssymb など どのパッケージを要するか も示されます。手書きの認識なので必ず一発で当たるわけではありませんが、候補のどれが正解だったかを伝えると認識モデルの改善に使われ、二度目以降の精度が上がっていきます。公式サイトは detexify.kirelabs.org。手元で動かしたい人向けには、同種の発想のデスクトップ/モバイルアプリもいくつか存在します。

mathcomp / textcomp — 立体の単位・記号

もう一系統、忘れがちな道具が **textcomp とその数式版 mathcomp** です。textcompTS1(Text Companion) という追加のエンコーディングを有効にし、本文(テキストモード)で度記号 \textdegree(°)・パーミル \textperthousand(‰)・オーム \textohm(Ω)・マイクロ \textmu(µ)・摂氏 \textcelsius(℃)などを出せるようにします。現代の LaTeX ではこれらの多くがカーネルに取り込まれていますが、古い文書やフォントによっては明示的に読み込む必要があります。

ところが、これらの記号を 数式モードのなか で使いたいことがあります。たとえば単位の「µm」を、変数の斜体ではなく 立体の µ で組みたい場合です。そこで使うのが mathcomp で、textcomp\textµ… 命令を、数式モード用に \tc…(text companion)と読み替えた一連の命令を提供します。命名規則は単純で、\textmu\tcmu\textdegree\tcdegree のように texttc に置き換えるだけです。

命令(mathcomp)字形意味
\tcohmΩオーム(抵抗の単位)。立体
\tcmuµマイクロ記号(µm などの µ)。立体
\tcdegree°度記号
\tccelsius摂氏(\tccentigrade も同義)
\tcperthousandパーミル(千分率)
\tcpertenthousandパーミリアド(万分率)

読み込みは \usepackage{mathcomp} だけで、内部で textcomp も呼ばれます。オプションでフォントファミリを指定でき(例:\usepackage[ppl]{mathcomp} で Palatino の TC フォントを使う)、\tcdigitoldstyle{0}\tcdigitoldstyle{9} でオールドスタイル数字も得られます。なお \tcohm(Ω)はギリシャ大文字 \Omega とは別物で、こちらが正式な単位記号です。単位の組版を本格的にやりたい場合は、単位専用の **siunitx** パッケージのほうが目的に合うことも多く、そちらは「単位(siunitx)」のページで扱います。