雑記号

ここで言う「雑記号」とは、ギリシャ文字・演算子・関係子・矢印のどの仲間にも入らない、けれど数式で頻繁に登場する記号の寄せ集めです。無限大 ∞、偏微分の ∂、ナブラ ∇ といった解析の記号から、物理でおなじみの ℏ・ℓ、幾何の ∠・△、音楽の ♭♮♯、省略の三点リーダ …⋯、トランプの ♣♢♡♠ まで。多くは LaTeX 標準で使えますが、\square\circledR、ヘブライ文字の \beth などは amssymb パッケージが要ります。このページでは入力の約束を整理したうえで、用途別に引きやすい一覧表にまとめます。

入れ方と amssymb の約束

この章の記号はほぼすべて 数式モードのなか で使う命令です。本文(テキストモード)にそのまま \infty と書くとエラーになるので、$\infty$ のように数式モードに入れてから書きます。例外は本文用の記号で、節記号 \S(§)・段落記号 \P(¶)・\copyright(©)はテキストモードでそのまま使えます。

次に押さえたいのが パッケージの約束 です。\infty\partial\nabla\hbar\ell、三点リーダ各種、トランプのスートなどは LaTeX 標準 でそのまま使えます。一方、白四角 \square(□)や角度の \measuredangle(∡)、丸 R の \circledR(®)、ヘブライ文字 \beth(ℶ)などは AMS の追加記号 で、プリアンブルに \usepackage{amssymb} が必要です。本ページの一覧では、amssymb が要るものを各行の備考で明示します。

document.tex
\usepackage{amssymb}   % \square, \measuredangle, \circledR, \beth … に必要
% ...
体積 $V$ が $\infty$ に発散し、勾配は $\nabla f$ で表す。
\[ \frac{\partial f}{\partial x}, \qquad \angle ABC = 90^\circ, \qquad \triangle ABC \]

解析・微積分の記号

解析でよく使う基本記号です。すべて LaTeX 標準で、amssymb は要りません。なお \prime(′)は単独で打つことはまれで、ふつうは導関数を表す上付きアポストロフィ f'(= f^{\prime})として使います。\surd(√)は根号記号の「チェック」部分だけで、実際に平方根を組むときは引数を取る \sqrt{...} を使うのがふつうです。

命令字形用途・備考
\infty無限大
\partial偏微分(ラウンドディー)
\nablaナブラ(勾配・発散・回転に)
\surd根号記号。通常は \sqrt{...} を使う
\primeプライム。通常は f' のように上付きで

文字に由来する記号(物理・数学)

文字をもとにした記号です。量子力学の換算プランク定数 ℏ は \hbar、筆記体のエル ℓ(長さや直線、行列の固有値などに)は \ell。複素数の実部・虚部を表す \Re\Imフラクトゥール体の ℜ・ℑ を出力します。立体の「Re」「Im」を作用素として組みたいときは、amsmath\operatorname{Re}\operatorname{Im} を使うのが現代的です。ワイエルシュトラスのペー ℘ は \wp、無限濃度のアレフ ℵ は \aleph

アレフに続くヘブライ文字 ベート ℶ・ギメル ℷ・ダレット ℸ は集合論の基数で使われますが、これらは標準では未定義で **amssymb が必要** です(\beth\gimel\daleth)。アレフ \aleph だけは標準にある点に注意してください。

命令字形用途・備考
\hbar換算プランク定数(エイチバー)
\ell筆記体のエル(長さ・直線など)
\Re実部。フラクトゥール体。立体は \operatorname{Re}
\Im虚部。フラクトゥール体。立体は \operatorname{Im}
\wpワイエルシュトラスのペー
\alephアレフ(基数)。標準で使える
\bethベート(基数)。amssymb が必要
\gimelギメル。amssymb が必要
\dalethダレット。amssymb が必要

幾何の記号

角や図形を表す記号です。角の \angle(∠)と三角形の \triangle(△)は LaTeX 標準。一方、測定角 \measuredangle(∡)・球面角 \sphericalangle(∢)や、白四角 \square(□)・黒四角 \blacksquare(■)、丸 R \circledR(®)・丸 S \circledS(Ⓢ)は **amssymb が必要** です。証明の終わりに置く「□」(QED)にも \square がよく使われます(amsthmproof 環境では自動で挿入されます)。

紛らわしいのが \Box(◻)と \Diamond(◇)です。これらは様相論理の「必然」「可能」を表す大きめの記号で、**latexsym または amssymb** が要ります(標準 LaTeX には入っていません)。AMS の \square(□)とは別物で、字幅も異なります。

命令字形用途・備考
\angle角。標準で使える
\measuredangle測定角。amssymb が必要
\sphericalangle球面角。amssymb が必要
\triangle三角形。標準で使える
\square白四角/QED。amssymb が必要
\blacksquare黒四角。amssymb が必要
\Box様相「必然」。latexsym か amssymb
\Diamond様相「可能」。latexsym か amssymb
\circledR®丸 R(登録商標)。amssymb が必要
\circledS丸 S。amssymb が必要

省略の三点(ドット)

数列や行列で項を省略するための三点リーダです。いずれも LaTeX 標準。横方向には、ベースライン(下寄り)の \ldots(…)と、中央の高さの \cdots(⋯)の二つがあり、使い分けが重要 です。カンマ区切りの並び a_1, \ldots, a_n には下寄りの \ldots を、演算子をはさむ並び a_1 + \cdots + a_n には中央の \cdots を使います。縦・斜めの \vdots(⋮)・\ddots(⋱)は行列でおなじみです。

迷いたくなければ汎用の \dots(…)が便利です。標準では \ldots と同じですが、**amsmath を読み込むと文脈を見て** 下寄り(カンマの前など)か中央(演算子の前など)かを自動で選びます。文脈で判断できない場合に備え、amsmath には用途を明示する \dotsc(カンマ用)・\dotsb(二項演算子用)・\dotsi(積分用)・\dotso(その他)も用意されています。

命令字形用途・備考
\ldots下寄りの三点(カンマの並びに)
\cdots中央の三点(演算子の並びに)
\vdots縦の三点(行列)
\ddots斜めの三点(行列の対角)
\dots汎用。amsmath で文脈に応じ自動選択

音楽記号

臨時記号の三つは LaTeX 標準 で使えます。フラット(変記号)は \flat(♭)、ナチュラル(本位記号)は \natural(♮)、シャープ(嬰記号)は \sharp(♯)。数式モードの記号なので、本文で使うときは $\flat$ のように囲みます(B♭ なら B\flat)。

命令字形読み
\flatフラット(変記号)
\naturalナチュラル(本位記号)
\sharpシャープ(嬰記号)

トランプのスートとその他の記号

トランプの四つのスート \clubsuit(♣)・\diamondsuit(♢)・\heartsuit(♡)・\spadesuit(♠)はいずれも LaTeX 標準 の数式記号です(白抜きの字形で、塗りつぶし版は amssymb などが必要)。脚注や注記に使う短剣符 \dagger(†)・二重短剣符 \ddagger(‡)も標準です。これらは数式モードの命令ですが、本文用にはテキストモードの \dag\ddag も用意されています。

本文用の参照記号として、節記号 \S(§)・段落記号 \P(¶, パイ/ピルクロー)・\copyright(©)はテキストモードでそのまま使えます。これらは数式モードでなくてよい点が、上のスートや短剣符とは異なります。

命令字形用途・備考
\clubsuitクラブ(数式モード)
\diamondsuitダイヤ(数式モード)
\heartsuitハート(数式モード)
\spadesuitスペード(数式モード)
\dagger短剣符(数式)。本文は \dag
\ddagger二重短剣符(数式)。本文は \ddag
\S§節記号(テキストモード)
\P段落記号/ピルクロー(テキスト)
\copyright©著作権記号(テキストモード)

ドットなしの i・j(アクセント用)

最後に、アクセントと組み合わせる ドットのない i・j を紹介します。i や j にハットやバーなどのアクセントを載せると、もとの点(ドット)とアクセントがぶつかって見栄えが悪くなります。そこで点を取り除いた \imath(ı)・\jmath(ȷ)を土台に使い、\hat{\imath}(î の数式版)のようにアクセントを載せます。ベクトルの基底 î・ĵ を組むときの定石です。

latex
% 点を取り除いてからアクセントを載せる
\[ \hat{\imath}, \quad \hat{\jmath}, \quad \vec{\imath} \]
% 比較: 点があるとアクセントとぶつかる
\[ \hat{i} \quad (\text{点とハットが重なる}) \]
命令字形用途・備考
\imathı点のない i。アクセントの土台に。標準
\jmathȷ点のない j。アクセントの土台に。標準

なお \imath\jmath は LaTeX 標準で、amssymb は不要です。空集合の \emptyset(∅)とその丸い異体字 \varnothing(∅, amssymb が必要)、全称・存在の \forall(∀)・\exists(∃)といった論理記号は、集合・論理のページでまとめて扱います。