引用(quote / quotation / csquotes)

他人の文章をまとまった単位で引き写すとき、本文に紛れ込ませず、左右に余白を取って一段下げた「ブロック引用」にすると、どこからどこまでが引用かが一目で分かります。LaTeX には標準で **quote(短い引用)、quotation(段落をまたぐ長い引用)、verse(詩)の 3 つの環境があり、現代では csquotes** パッケージの \blockquote が長さに応じて行内/別ブロックを自動で切り替えてくれます。このページはこれらの「引用ブロック」を扱います。引用符そのもの(“ ” や \enquote)は別ページに譲ります。

まず用語の整理から。行内引用 は引用符でくくって本文の文中に置く短い引用、ブロック引用(別行立て引用) は段落ごと切り出して字下げする長めの引用です。慣例として、おおむね 3〜4 行(または 40 語前後)を超える引用はブロックにします。引用符の打ち分けや \enquote の使い方は「引用符・ダッシュ」のページを参照してください。ここではブロック側の環境に集中します。

quote 環境(短い引用)

quote は最も基本的なブロック引用環境です。中身を 左右の両方 から字下げし、段落の 先頭の字下げ(インデント)は付けません**。\begin{quote}\end{quote} で囲むだけで、引用符は自動では入りません(必要なら自分で付けます)。1 段落程度の短い引用や、各行が独立した短い引用(標語・題辞・対句など)を並べるのに向きます。

document.tex
\begin{quote}
The quick brown fox jumps over the lazy dog. The five boxing
wizards jump quickly, and pack my box with five dozen liquor jugs.
\end{quote}

この一段落が、本文より左右に詰まった幅で、先頭字下げなしに組まれます。quote の内部で空行を入れて複数段落にもできますが、段落の先頭字下げが付かないため、段落の切れ目が分かりにくくなります。段落をまたぐ長い引用 には、次の quotation の方が適切です。

quotation 環境(長い引用)

quotation** も左右を字下げしたブロック引用ですが、quote と違って 各段落の 1 行目に先頭字下げが付き、段落間の空きは小さく抑えられます(標準で 0pt plus 1pt)。つまり通常の本文と同じ「段落=先頭字下げで区切る」流儀になります。複数段落にわたる長い引用 ——書籍からの長い抜粋や、会話を含む引用など——に向いています。

document.tex
\begin{quotation}
This is the first paragraph of a longer quotation. Its first line
is indented, just like ordinary body text.

This is the second paragraph. Because each paragraph is indented,
the boundaries between them stay clear even without blank space.
\end{quotation}

使い分けの目安は単純です。**1 段落なら quote、2 段落以上なら quotation**。どちらも内部はリストとして実装されており、\begin の前後に適切な縦の空きが自動で入ります。両者の違いを表にまとめます。

環境先頭字下げ段落間の空き向く用途
quoteなし通常の段落空き(\parsep)1 段落の短い引用・並列する短い行
quotationあり(1.5em)小さい(0pt plus 1pt)複数段落にわたる長い引用

なお、quotequotation は引用符を入れません。英語圏の組版では、ブロック引用は字下げ自体が引用の合図なので、引用符は付けないのが通例 です。引用符を付けたいか・自動で付けたいかという観点では、後述の csquotes が便利です。

verse 環境(詩)

詩や歌詞のように 行の区切りが意味を持つ 文章には **verse** 環境を使います。verse も左右を字下げしますが、決定的に違うのは 行末を自分で決める 点です。1 行の終わりはテキストでの改行命令 \\ で示し、連(スタンザ)の区切りは空行 で表します。両端揃え(行末の伸縮)は無効になります。

document.tex
\begin{verse}
Roses are red, \\
Violets are blue, \\
This stanza ends here.

A new stanza begins after the blank line, \\
and its lines are set the same way.
\end{verse}

もう一つの特徴は 長い行の折り返し です。1 行が紙面の幅に収まらないとき、verse は折り返した残りの部分(ランオーバー)に ぶら下げインデント(hanging indent) を付け、次に \\ で明示的に行を区切るまでその字下げを保ちます。これにより「論理的には 1 行だが物理的に折り返された行」と「新しい行」が視覚的に区別され、詩の行構造が崩れません。

より凝った詩の組版——連に番号を振る、行頭をそろえて中央寄せにする、行頭に番号を打つ——が必要なら、専用の verse パッケージや versewrapped 系の機能が使えますが、素朴な詩であれば標準の verse 環境で十分です。

csquotes — 長さで自動切り替えする \blockquote

quotequotation を手で選ぶのは、引用が短いか長いかを自分で判断して環境を切り替える作業です。**csquotes パッケージの \blockquote{…} は、これを 自動化 します。中身の長さを測り、しきい値を超えれば別行立てのブロック引用** として(標準では内部で quote 環境を使い、引用符は付けずに)組み、超えなければ 行内引用\textquote と同じく引用符付き)として組みます。

しきい値は標準で 3 行 です。thresholdtype=wordsthreshold=50 のように指定すれば「50 語」を基準にもできます。さらに既定では parthreshold が有効で、引用の中に明示的な段落区切りや改行があれば、長さに関わらず別行立て になります。つまり「複数段落の引用は必ずブロックにしたい」という直感どおりに振る舞います。

document.tex
\usepackage[autostyle=true]{csquotes}
% ...
% Short → typeset inline, with quotation marks:
\blockquote{Brevity is the soul of wit.}

% Long (over the threshold) → typeset as an indented block, no marks:
\blockquote{This passage runs well past three lines, so csquotes
sets it off as its own indented paragraph automatically, without
any manual choice between the quote and quotation environments.}

行内向けの短い引用だけを扱いたいときは **\textquote{…} を使います。これは中身を 必ず引用符でくくる** 行内引用で、ブロックには切り替わりません。\textquote には出典を添える仕組みもあり、\textquote[⟨出典⟩]{⟨本文⟩} のように 省略可能な引数で引用元 を書けます(句読点を別引数 [⟨punct⟩] で渡すこともできます)。

csquotes — 出典付き・多言語の引用

csquotes の真価は、引用が「意味」を持つ要素になる ことにあります。引用と 出典(引用文献) を 1 つの命令で結びつけられ、引用の言語 に応じて引用符の様式やハイフネーションを切り替えられます。学術文書では、この一体化が効いてきます。

\blockcquote** は \blockquote に **自動引用(\cite)を組み込んだ** もので、\blockcquote[⟨前注⟩][⟨後注⟩]{⟨文献キー⟩}{⟨本文⟩} のように書きます。⟨後注⟩ には通常ページ番号を、⟨文献キー⟩ には文献の鍵を与えます。長ければブロック引用+出典、短ければ行内引用+出典として組まれます。行内版は **\textcquote** です。これらは biblatexnatbib などの引用機構と連携します。

document.tex
% Block quotation that also prints a citation (page 67 of key "doe2020"):
\blockcquote[][67]{doe2020}{The argument develops over several
sentences and is long enough to be set as an indented block.}

外国語の引用 には言語対応版があります。**\foreignblockquote{⟨言語⟩}{⟨本文⟩}** は \blockquote に babel/polyglossia の言語切り替えを組み合わせ、ハイフネーション規則を切り替え、引用符もその言語の様式 にします(長ければ otherlanguage* で包んだ上でブロック化)。引用符は周囲の言語のまま、ハイフネーションだけ 引用言語に合わせたいときは **\hyphenblockquote{⟨言語⟩}{…}** を使います。いずれも出典付きの \foreignblockcquote などが対になっています。

なぜ csquotes を勧めるのか。引用の長短に応じた体裁、引用符の有無、言語ごとの様式、出典との連携を 一貫した規則で自動処理 でき、後から方針を変えてもプリアンブルの設定だけで全引用に反映されるからです。素の quotequotation は手軽ですが、文書が大きく多言語・要出典になるほど csquotes の堅牢さが効いてきます。

どれを使うか

  • 1 段落の短い引用quote。手早く、依存パッケージなし。
  • 複数段落の長い引用quotation(先頭字下げで段落が分かれる)。
  • 詩・歌詞verse(行は \\、連は空行、長い行はぶら下げ)。
  • 長短を自動で切り替えたい/引用符も自動でcsquotes\blockquote
  • 出典を一緒に出したい\blockcquote / \textcquote(biblatex 等と連携)。
  • 多言語の引用\foreignblockquote / \hyphenblockquote(言語と引用符を整合)。

いずれの環境も、内側ではリストとして組まれるため、itemize などと同じく前後に縦の空きが入り、入れ子にもできます。引用ブロックの中で改行位置を細かく整えたいときは「改行・改段落の扱い」を、字下げや中央寄せといった配置全般は「文字寄せ」のページも参考になります。