TeXstudio は、無料・オープンソースで Windows・macOS・Linux に対応する LaTeX 統合環境(IDE)です。エディタ・PDF ビューア・ビルド設定・補完が一つにまとまっており、別途インストールした TeX ディストリビューション(TeX Live など)を呼び出して動きます。このページでは、つまずきやすい ビルド設定、執筆を速くする 補完、ソースと PDF を行き来する SyncTeX を中心に見ていきます。
TeXstudio とは
TeXstudio は、かつての Texmaker のコードを土台に分岐(フォーク)して生まれた LaTeX 専用エディタです。Qt 製で見た目と挙動が三つの OS でほぼ揃い、構文ハイライト、リアルタイムの綴り・文法チェック、400 種を超える数式記号パレット、組み込みの PDF ビューアなどを備えます。LaTeX 本体を内蔵しているわけではない点に注意してください。コンパイルは、システムにインストール済みの pdflatex や latexmk といったコマンドを TeXstudio が裏で起動して行います。
したがって導入の順番が大切です。先に TeX ディストリビューションを入れ、その後で TeXstudio を入れます。日本語環境(TeX Live 2026 など)が整っていれば、TeXstudio 側はビルドのつなぎ方を設定するだけで動きます。
ビルド設定
設定はすべて オプション → TeXstudio の設定(Options → Configure TeXstudio) から行います。下部の 「上級者向けオプションを表示(Show Advanced Options)」 にチェックを入れると、項目が大きく増えます。ビルドに関わるのは主に二つのタブです。「ビルド(Build)」 タブで「どのコマンドを既定にするか」を決め、「コマンド(Commands)」 タブで各コマンドの実体(実行ファイルの場所と引数)を指定します。
ふだん押すボタンは二つだけ覚えれば十分です。「ビルド & 表示(Build & View, F5)」 はコンパイルしてそのまま PDF を開きます。「コンパイル(Compile, F6)」 は PDF を作るところまで。ほかに 「表示(View, F7)」 で PDF を開き、「クリーン(Clean)」 で .aux・.toc などの中間ファイルを掃除できます。
TeXstudio の内部では、各動作が txs:/// で始まる 内部コマンド として表現されています。たとえば txs:///compile は「既定のコンパイラ」、txs:///view は「既定のビューア」、txs:///latexmk は latexmk を指します。「ビルド & 表示」の中身は、これらを縦棒 | でつないだコマンド列です。既定のコンパイラは標準では pdfLaTeX ですが、依存関係(参考文献・索引・再実行回数)を自動で面倒みてくれる latexmk に変えるのが定番です。
「コマンド」タブで latexmk の行を次のように書いておくと、PDF を直接生成しつつ SyncTeX 情報も出力できます。% は処理対象のファイル名(拡張子なし)に展開されます。
latexmk -pdf -synctex=1 -interaction=nonstopmode %.tex原稿ごとにエンジンを切り替えたいときは、ファイル先頭の マジックコメント で指定できます。たとえば次の 1 行を置くと、その文書だけ LuaLaTeX でコンパイルされます。
% !TeX program = lualatex日本語のためのビルド設定
日本語では二つのやり方が広く使われています。一つは LuaLaTeX。「ビルド」タブで 「ビルド & 表示」を「コンパイル & 表示」、「既定のコンパイラ」を「LuaLaTeX」 にすれば、F5 ひと押しで PDF まで進みます。新規に始めるならこれが素直です。もう一つが、日本語で長く定番の upLaTeX + dvipdfmx。この場合は 「ビルド & 表示」を「DVI->PDF チェーン(DVI->PDF chain)」、「既定のコンパイラ」を「LaTeX」 に設定します(DVI を経由して PDF にするため)。
もっとも見通しがよいのは、エンジンの組み合わせを **.latexmkrc** に書き、TeXstudio 側は latexmk を呼ぶだけにする方法です。.tex と同じフォルダに次のファイルを置けば、upLaTeX → dvipdfmx の流れ・参考文献(upbibtex)・索引(upmendex)・再実行回数まで latexmk が引き受けます。$latex に -synctex=1 を入れているので、SyncTeX もそのまま効きます。
$latex = 'uplatex %O -synctex=1 -interaction=nonstopmode %S';
$bibtex = 'upbibtex %O %B';
$makeindex = 'upmendex %O -o %D %S';
$dvipdf = 'dvipdfmx %O -o %D %S';
$pdf_mode = 3;ここで $pdf_mode = 3 は「DVI を作ってから $dvipdf で PDF にする」モードの指定です。%O は追加オプション、%S は入力ファイル、%B は拡張子なしのベース名、%D は出力先を表す latexmk の置換記号です。この方式なら、TeXstudio・コマンドライン・別のエディタのどれから叩いても同じ結果になり、設定が一か所に集約されます。
補完と構造ビュー
TeXstudio の補完は、打つ手数を確実に減らします。バックスラッシュ \ に続けて文字を打つと、候補の命令が一覧表示され、字を足すほど絞り込まれます。先頭が共通している候補が並んでいるときは Tab で共通部分まで一気に補えます。さらに、相互参照の \ref{...} を書くと文書中の ラベル が、\cite{...} では参考文献の キー(bibID) が候補として差し込まれるため、名前のうろ覚えで悩む場面が減ります。
環境まわりも快適です。\begin{itemize} のように環境を始めると、対応する \end{itemize} が自動で補われます。すでに書いた環境名にカーソルを少し置くと ミラーカーソル が現れ、\begin と \end の名前を同時に書き換えられます(itemize を enumerate に直す、といった操作が一手で済みます)。開いたままの環境を閉じたいときは Alt+Return が使えます。
左側の 構造ビュー(Structure view) は、文書の地図になります。\section などの 見出し、\label の ラベル、\input/\include で取り込んだ ファイル、beamer のブロック、そして TODO(\todo{} や % TODO コメント)が一覧化され、項目をクリックすると該当箇所へ飛べます。長い原稿や複数ファイル構成でも全体像を見失いません。
SyncTeX(前方・後方検索)
SyncTeX は、ソースの行と PDF の表示位置を相互に対応づける仕組みです。これが効くと、エディタの今いる行から PDF の対応箇所へ飛ぶ 前方検索、逆に PDF 上の文字からソースの該当行へ戻る 後方検索(逆検索) ができます。校正のときに「この段落はソースのどこか」を探す手間が消えるので、効果は大きいです。
有効化の条件は二つです。第一に、コンパイルコマンドに **-synctex=1** を付けて同期ファイル(.synctex.gz)を出力させること。上の latexmk 行や .latexmkrc のように設定しておけば十分です(付け忘れていると、TeXstudio が「こちらで直してよいか」と尋ねてくれます)。第二に、PDF を 組み込みビューア(内蔵 PDF ビューア) で開くこと。SyncTeX 対応の内蔵ビューアが、相互ジャンプの前提になります。
操作は素直です。前方検索は、ビューアを開くたびに 現在のカーソル位置へ自動で移動 します。任意の箇所で行いたいときは、ソース上で Ctrl + 左クリック、または右クリックメニューの 「Go To PDF」。後方検索は、PDF 上の文字を Ctrl + 左クリック、または右クリックの 「jump to source」 でソースへ戻ります。さらに「カーソルに追従してスクロール」「スクロールに追従してカーソル移動」を有効にすると、編集中つねに両者が連動します。