数式モードでは、文字の上に小さな印を載せて意味を添えます。推定量の \hat、時間微分の \dot、平均や共役の \bar、ベクトルの \vec などです。覚えておきたい勘どころは二つ。ほとんどのアクセントは 一記号ぶんの固定幅 で、複数文字に付けても伸びないこと。そして \hat ↔ \widehat のように、幅に合わせて 伸びる対応版 を持つものがあることです。このページは数式アクセントを素早く引くための一覧で、固定幅アクセントの表、伸縮型との対比、i・j への付け方を順にまとめます。括弧・下付けアクセント・任意記号の重ね方など踏み込んだ話は「上下に付けるもの」に譲ります。
アクセントの使い方
数式アクセントは 数式モードのなか で、\hat{x} のように 一文字を引数に取る命令 として書きます。本文(テキストモード)にそのまま書くとエラーになる、あるいは別物(欧文用アクセント)になるので、$\hat{x}$ のように数式モードに入れてから使います。ここで扱う一文字用のアクセントは下表のとおり LaTeX 標準で、追加パッケージは要りません(三点・四点の \dddot・\ddddot だけは amsmath が必要です)。
これらの印に決まった意味はなく、分野ごとの慣習 で使われます。物理では \dot{x} が時間微分(x の時間に関する変化率)、統計では \hat{\theta} が母数の推定量、\bar{x} が標本平均、複素数では \bar{z} が共役を表す、といった具合です。要するに「どの印か」を選ぶのがこのページ、「どう積むか・式全体にどうかけるか」が次ページ、という役割分担になります。
固定幅アクセント(一覧)
次の表が、一記号ぶんの大きさで載る固定幅アクセントの一覧です。引数が複数文字でも伸びず、最初の一記号の上に中央そろえで置かれます。「見た目」はこのサイトに数式レンダラがないため言葉で説明しています(実際の出力を確認するには手元でコンパイルしてください)。
| 命令 | 見た目 | 典型的な用途 |
|---|---|---|
\hat | 山形(^、サーカムフレックス) | 推定量、単位ベクトル |
\tilde | 波(~、チルダ) | 近似値、変換後の量 |
\bar | 短い横棒(マクロン) | 平均、複素共役 |
\vec | 小さな右向き矢印 | ベクトル量 |
\dot | 点 1 つ | 時間微分(1 階) |
\ddot | 点 2 つ(ウムラウト状) | 時間微分(2 階) |
\dddot | 点 3 つ(amsmath が必要) | 時間微分(3 階) |
\ddddot | 点 4 つ(amsmath が必要) | 時間微分(4 階) |
\acute | アキュート(右上がりの斜線 ´) | 言語表記、まれに数式 |
\grave | グレイブ(右下がりの斜線 `) | 言語表記、まれに数式 |
\check | チェック(ハーチェク、v 字 ˇ) | 幾何・代数の記号付け |
\breve | ブレーヴェ(短音記号、椀形 ˘) | 幾何・代数の記号付け |
\mathring | 小さな丸(リング ˚) | 幾何の記号、まれに単位 |
\[
\dot{x}, \quad \ddot{x}, \quad \bar{x}, \quad \hat{p},
\quad \tilde{a}, \quad \vec{v}, \quad \check{s}, \quad \mathring{r}
\]これらはそれぞれ、x の上の点 1 つ・点 2 つ、x の上の短い横棒、p の上の小さな山形、a の上の波、v の上の小さな右向き矢印、s の上の v 字、r の上の小さな丸として組まれます。命令名は 大文字・小文字を区別 し、引数は中括弧で囲みます(\hat x のように一文字なら中括弧を省けますが、\hat{x} と書くのが安全で読みやすい流儀です)。
固定幅 ↔ 伸縮型の対応
いくつかのアクセントには、引数の 幅に合わせて伸びる 対応版があります。\hat{x} が一文字の上の小さな山形なのに対し、\widehat{xyz} は xyz 全体を覆うように山形が横に広がります。式全体にかけたいときは伸縮型、一文字なら固定幅、という使い分けが基本です。次の表が対応関係です。
| 固定幅(一文字) | 伸縮型(式全体) | 備考 |
|---|---|---|
\hat | \widehat | 標準 LaTeX。山形が幅に伸びる |
\tilde | \widetilde | 標準 LaTeX。波が幅に伸びる |
\bar | \overline | 標準 LaTeX。中身の幅に伸びる横線 |
\vec | \overrightarrow | 標準 LaTeX。幅に伸びる右向き矢印 |
\[
\hat{x} \;\text{vs.}\; \widehat{xyz}, \qquad
\bar{z} \;\text{vs.}\; \overline{x + y}, \qquad
\vec{a} \;\text{vs.}\; \overrightarrow{AB}
\]注意点が二つ。第一に、標準 LaTeX で **本当に伸びるアクセントは \widehat と \widetilde の二つだけ** です(\overline・\overrightarrow は厳密にはアクセントではなく、上に渡す横線・矢印ですが、伸びる点で同じ仲間として使えます)。第二に、\widehat・\widetilde は数段階の決まった大きさから選ばれるため、極端に長い式では十分に広がりきらず不格好になることがあります。その場合は \overline の利用を検討してください。
とりわけ \vec は取り違えやすい命令です。\vec{AB} と書いても矢印は伸びず、事実上 B の上あたりに小さな矢印が乗るだけで、A から B への線分ベクトルには見えません。両端に渡る矢印が欲しいときは \overrightarrow{AB} を使います。両方向や下付けの矢印など、伸縮型のさらに詳しい話は「上下に付けるもの」を参照してください。
i・j に付ける(点をなくす)
i や j にアクセントを付けると、文字自身の点とアクセントが重なって見苦しくなります。そこで伝統的に、**点のない字 \imath(点なし i)と \jmath(点なし j)** を土台に使います。たとえば \hat{\imath} と書くと、点のない i の上に山形だけがきれいに乗ります。これらはどちらも数式モード用の標準命令で、追加パッケージは要りません。
\[
\hat{\imath}, \quad \vec{\jmath}, \quad \dot{\imath}
\]なお、アクセントの二重がけはきれいに積み上がりません。\hat{\vec{x}} のように二つを重ねると、上の印が浮いたり位置が不自然になりがちです。点を増やしたいだけなら \ddot や amsmath の \dddot・\ddddot を使い、込み入った重ねが必要なら次ページの \overset で明示的に組むのが安全です。